憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 パイロットの指示がなくとも、有事の際は各自の判断で動くことを求められるのに……。
 彼らの意図を読み取れないなんて。
 プライベートだとしても、絶対にありえないことだわ。

 ぎゅっと唇を引き結び、噛みしめ耐える。
 そんな私の姿を見かねたキャプテンは、さらなる爆弾を投下した。

「そう遠くない未来に、千晴が私の娘であるとを社内で公表するつもりだよ」
「必要ありません! 私は、峯藤の娘として生きていきます!」
「それは許可できないかな。櫻坂とノースエリアを隔てる壁の内側で暮らす以上、きっぱり宣言しておかないと君の身にも危険が及ぶから」
「壁の内側……?」

 キャプテンは一体、何の話をしているのだろう。
 ノースエリアは高級住宅街。
 由緒正しき富裕層やその関係者でなければ立ち入りが許されない場所だ。

 そこに、私が暮らす?

 庶民の私が出入りするなどありえないと考える一方で、機長の住む場所が航空会社の従業員に何かと評判がいいべリが丘のウエストエリアではなかったことに疑問を抱く。
 彼がLMM航空の社長であることは確かだけれど、ノースエリアに住んでいるなんて話は聞いたことがなかったのに……。

 答えの出ない疑問が浮かび上がっては消えていく中で。
 私の父親であると宣言した男は、娘に複数の選択肢を提示する。

「千晴の選択肢は、二つだけだよ。私たち夫婦との同居を拒否するなら、航晴と結婚しなさい」
「はぁ……!?」

 ここがコックピットだったら、キャプテンの前で素っ頓狂な声をあげる世間知らずなCAと噂が立ち、大変なことになっていただろう。
 開いた口が塞がらない私は、隣に座る三木副操縦士と見つめ合う羽目になった。

 両親との同居が嫌なら、副操縦士と結婚? なんで私が?

 疑問が解決したかと思えば、また新たな難題がやってくる。
 至るところで投げ込まれた爆弾があちらこちらで爆発しているせいで、私の心はボロボロだった。

 本当にもう、勘弁して……。

 普段めったに食べられない高級食材に舌鼓が打てると、ノコノコ顔を出すんじゃなかった。
 オーベルジュにやってきたことを後悔するほど、私は疲弊している。

 もう、何も考えたくない。疲れた。
 家に帰って寝たいと思うのに、このまま何もかもを投げ出すわけにはいかないのだからどうしようもない。
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