憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 私は隣に座ってこちらを無表情で見つめる副操縦士の視線を無視すると、機長に狙いを定めた。

「父親ヅラの次は、娘と部下の結婚斡旋ですか。キャプテンがそんな人だとは思いませんでした」
「千晴……言葉を慎みなさい」
「私は間違ったことなんて言ってないわよ!? そういうのって、愛し合う男女がするものじゃない! 突然名乗り出てきた父親に、結婚を強制される謂れはないわ!」
「これは千晴のためなのよ……」
「何それ。お母さんは、私と三木副操縦士の結婚を推奨しているの?」
「……ええ。航晴さんだったら、安心して千晴を任せられるわ」
「何それ!? 何も知らないくせに!」

 CAとして働いていれば、副操縦士とは様々な交流が生まれる。
 コックピットの中に入る機会だってあるし、休憩のために機内に出てきた彼と世間話をすることだってあった。
 彼の人となりは、お母さんよりもよく理解しているはずだ。

 それに、三木副操縦士は。
 私がずっと気になっていた人だから……。

 けれど彼は人気者で。
 私のような庶民出身の女が手を伸ばしたところで、結ばれるはずのない人だ。

 この気持ちは胸の奥底にしまい、浮かび上がってくる前に捨て去ろうと決意していたのに――どうして、諦めるなと背中を押すのだろう。
 もしもこのまま結婚することになり、子どもが産まれるようなことがあれば。
 私はお母さんのように、CAをやめて子どもの面倒を見なければならなくなるのに――。

「私、お母さんに言ったよね? 結婚するつもりはないって! 定年までCAとして立派に勤め上げるつもりで働くつもりだと。夢を叶えるための邪魔をするつもり!?」
「違うわ。大吾さんの娘であることが公表されたら、千晴の身に危険が及ぶのよ。あなたを守るためにも、彼を……」
「危険って何!? キャプテンは、誰かから恨まれるような人生でも歩んできたわけ!?」

 大声で捲し立てるなど、みっともない。
 理解していてもやめられなかったのは、混乱しているせいだ。
 この気持ちを、自分の中だけで処理するのは難しい。
 発散しないと、壊れてしまいそうだった。

 もう、どうすればいいのかわからない。
 何を選ぶことが正解なのかすら、見当もつかなくて――。
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