憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「それは、また今度私の口から話そう」
「ふーん。また、そうやって逃げるんだ」
「千晴……!」
「いや。いいんだよ、陽子。今は結婚についての話が先だから」

 話し合うつもりなんてないくせに。

 こちらの意思なんて、どうでもいいんでしょ? 私の知らないところで、隠れてコソコソお母さんと三木副操縦士は顔合わせを済ませていたみたいだし。
 何なの、もう。一人だけ除け者になんてしないでよ。
 内心苛立ちながら、キャプテンを睨みつけた。

「航晴は手塩にかけて私が育て上げた、将来LMM航空を担う優秀なパイロットだ。我が社は彼に継いでもらうつもりだよ」
「ふーん。それで、娘の婿養子にするってこと」
「……そうなるね」
「時代錯誤にも、程があると思いませんか。現代日本では恋愛結婚が主流ですよ。それを今更、お見合い結婚みたいなこと……」
「愛のない結婚だとは、言っていない」
「はい?」

 隣の席から思わぬ言葉が飛び込んで来たことに驚き、態度悪く聞き返してしまった。
 両親から結婚を強要されているのに愛のない結婚ではないなど、どの口が言うのだろうか。
 彼は私の視線がキャプテンから自分へ向いたことを確認すると、真っすぐこちらを見つめながら言葉を紡ぐ。

「俺は千晴様に、好意を持っている。キャプテンに強要されているわけではなく、自らの意思で婿養子に入りたい」
「私と結婚すれば、LMM航空の社長になれるからでしょ?」
「違う。君はCAとしての勤務態度も素晴らしい。しっかりとパイロットの希望にあった飲み物を記憶し、最善のタイミングで提供してくれる」
「それは、CAとして当然のことで……」
「いや。パイロットケアを軽視しているCAは、君が思っているよりもかなり多い。千晴様は、よくやってくれている。俺は君と、人生を共にしたいと思った。だからこそ、今ここにいる」
「その程度で惚れられても……」

 彼らは飛行中に喉が渇いた際、内線電話でCAを呼んで飲み物を用意してもらう。
 そうした業務のことをパイロットケアと呼ぶのだけれど、彼はその際の勤務態度が素晴らしかったからこそ惚れたのだと語った。
 憧れの人だからこそ、特別なことをしてあげようと思って行動したつもりはない。

 誰に対しても同じ対応をしているはずだ。

 仕事に勤勉な姿を見て好意を抱いたなど、口ではなんとでも言える。
 彼の言葉が信じられない私は、キャプテンから与えられた選択肢を拒絶した。

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