憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「サウスパークよりも家同士の間隔が広く、緑に溢れているだけだな。世間一般が思い描くような、絢爛豪華な住宅街ではないぞ」
「そうみたい……。外壁も宝石でゴテゴテに飾ったり、宮殿みたいな家が山程建っているのだとばかり……」
「ノースエリアを、どんな場所だと思っていたんだ……」

 航晴は私の思い描く風景がうまく想像できなかったみたい。
 呆れたように、肩を竦めていた。

 だって、日本トップクラスの資産家や富豪が暮らす高級住宅街なんでしょう!?
 テレビで散々、イメージ画像としてそうしたヘンテコハウスが放送されていたんですもの!
 誰だって壁の内側には、そうした光景が広がっていると思うに決まっているわ!

 私は胸の前で腕を組み、彼の口から語られる解説に耳を傾ける。

「西洋や南国をイメージして作られた区画もあるが、アラビアを思わせる建物はそう多くはない。そもそも、高級住宅街と一括りにされているが、別荘や投資利用が多く、実際に住居として暮らしている人間は数えるほどしかいないぞ」
「こんなにセキュリティがしっかりしてるのに!?」
「だからこそ、だ。頻繁に出入りするようなタイプは、デメリットにもなりかねない。長期休みなどは人の出入りが激しいと感じることもあるが、普段は静かなものだぞ」
「そうなんだ……」

 まぁ、確かに。
 ノースエリアで暮らす人々が大量にいた場合、櫻坂が毎日リムジンで渋滞してしまうものね。
 そうなっていないのであれば、ここで日常的に暮らしている住人はそれほど多くはないのでしょう。

 誰もが羨む高級住宅街の中は、夢のワンダーランドではなかった。

 庶民の私からしてみれば、これほどありがたいことはないけれど。
 ノースエリアが昼夜問わずきらびやかな場所だと勘違いしていた人がこの光景を見たら、こんなはずじゃなかったと後悔するんじゃないかしら。

 ――かわいそうに。

 強制的に連れてこられた私と、自ら望んでこの場所に足を踏み入れて絶望した人物なら、どちらがより不幸なのかしら?

「少しセキュリティの厳しい、住宅街だと思ってくれたらいい。ホームレスの道を選び取るほど、嫌悪するような場所ではなかっただろう」

 どうでもいいことを考えていれば、航晴から思いがけない言葉が飛び出て困惑する。

 守衛に一言断り、本人確認が済まなければ中に入れない高級住宅街のセキュリティを、一般の住宅街よりも少し厳しい程度と称する感覚が理解できないわ……。

 私は呆れながらも、リムジンが到着するのを待った。
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