憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「ねぇ! 私は……っ!」
「お帰りなさいませ。千晴お嬢様」
「お嬢様のお帰りを、心よりお待ちしておりました」
「ひゃ……っ!?」

 中に入るなんて、言ってない!

 そう反論するつもりだった言葉が、口から紡がれることはなかった。
 ホテルのような清潔感溢れるエントランスに、ずらりとエプロン姿の女性とコック服に身を包んだ男性が並び、頭を下げて来たからだ。
 なにこれ。どうなってるの……?
 私は思わず航晴の胸元をぎゅっと握りしめて、怯えてしまう。

「せっかく出迎えて頂いたところ、申し訳ない。千晴はまだ、状況が飲み込めていないんだ」
「左様でございますか」
「これは、大変失礼いたしました」
「自己紹介などは、落ち着いてからがよろしいでしょうか」
「そうだな。倉橋(くらはし)以外は下がってくれ」
「承知いたしました」
「それではお嬢様、失礼いたします」

 彼の指示に従った人々は、一斉に頭を下げるとその場を去った。

 一体、なんなの?

 広いお屋敷を両親が管理しきれないから、使用人を雇っているのは理解できるけれど――娘の私にまで、仰々しく頭を垂れる必要があるとは思えない。

「今のは……」
「左側は天倉の家に使える使用人。右側は住み込みのシェフ。ここに残ったのが、倉橋だ。千晴の世話をしてくれる」
「はじめまして、千晴様。倉橋と申します。僭越ながら、身の回りのお世話を担当いたします」

 使用人? 住み込みのシェフ? 身の回りのお世話!?

 これからこのお屋敷で、ああやって特別扱いされながら過ごすの?
 冗談じゃないわ……!

「大丈夫か。顔が真っ青だぞ」
「頭痛い……」

 ある日突然私が、社長令嬢!?

 言葉にすれば漫画みたいな展開だけれど、今日はいろんなことがありすぎて、受け止めきれない。

 頭を押さえ、目を瞑る。
 もう限界だ。

 この年にもなって他人と同居生活なんて、冗談じゃない。
 静かに一人暮らしをしていたかっただけなのに、どうしてこうなったの?

「やはり、天倉の家で暮らすのは嫌か」
「気の休まらない場所で、過ごすとか無理に決まっているわ……」
「俺の家に来るか」

 はっと目開き、彼と視線を交える。
 航晴はなぜか、痛ましそうなものを見る目でこちらの様子を窺っていた。

『天倉で暮らすことよりも、自分と一緒に暮らすことを選んでほしい』

 そう視線で訴えかけてきた副操縦士の意思を認識し、ぱっと胸元から手を離すと――大声で叫ぶ。

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