憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 どこに何が収納されているかすらも手探りな状態で、生活していけるのかしら。
 不安な気持ちでいっぱいになりながらも、適時忘れないようにスマホのメモ帳アプリにリスト化していく。

 どうにかドレッサーの収納棚に愛用しているメイクボックスが置かれていることに気づくと、手早くお化粧を施してからゆっくりと部屋のドアを開けた。

 ――エントランスへ向かうには、右側の突き当りにある階段を下ればいいのよね。

 左側の廊下は、進む気になれなかった。

 自宅で迷子なんて、冗談じゃないわ。
 住み込みで働いている使用人たちもいるようだし、勝手に他人の部屋に迷い込んでしまっては大騒ぎになるだろうし。

 辺りを見渡しながら、ゆっくりと広々とした廊下を歩く。

 ――西洋のお城に迷い込んだみたいね……。

 廊下の門には小さなテーブルが置かれていた。
 高そうな花瓶に花が生けられ、絵画が壁に飾られている。
 何よりも照明が豪華すぎて、なんともいえない微妙な気分になった。
 シャンデリアなんて、大量につけるものじゃないでしょうに。

 突っ込みどころが多すぎて、歩いているだけでも寿命が縮みそう。

 真ん中を堂々と歩いていて、ごめんなさい……。

 私は心の中で謝罪しながら階段を下り、ロビーに戻ってくる。

「おはようございます、お嬢様!」

 今日始めて、使用人と出くわした。
 エプロン姿の女性は箒を片手に、元気よく挨拶してくれる。

 お嬢様って呼ばれ方は、慣れないな。
 無視するのは態度が悪すぎるだろうと、渋々小さな声で挨拶を返した。

「おはよう、ございます……」
「リビングで、三木様がお待ちですよ! ご案内いたしますね!」
「……はい?」

 何を言われているかさっぱりわからず首を傾げれば、彼女は箒を近くの柱に立てかけて歩き出す。
 理由もわからず追いかけた先には――。

「おはよう、千晴」

 優雅にティーカップを手に持ち椅子に座り、ラフな格好をした航晴が当然のようにくつろいでいた。

「な、なんで……!?」

 開いた口が塞がらないとはこのことか。
 私は震える声で、ここにいる理由を問いかけた。

 使用人は頭を下げると、用は済んだとばかりに出て行ってしまう。
 こうして二人きりにされた以上は、本人から聞かなければならないわけで……。

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