憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

宣戦布告

 ノースエリアの一等地は、小高い丘の上に建てられている。
 自宅から壁まで向かう間には、数カ所坂があった。

 今回は下り坂なのでかなり楽だけれど……。
 櫻坂からこちらへ向かう際には、とてもじゃないが暗い夜道を一人で歩いてここまでやってくる気にはなれなかった。

「下り坂でも、距離があるから辛いだろう。少し、休憩していかないか」

 どれほど歩いただろう。

 大自然に覆い隠されるようにしてひっそり佇む大豪邸を遠くから物珍しそうに眺めたり、豪富の皆様を乗せたリムジンとすれ違うこと数度。

 航晴からそびえたつ壁の入口からほど近い、左の開けた公園の一部に設置されたアスレチックスペースで休憩しないかと提案された。

「ここから車で10分程度の場所に、海が見える大きな公園があったわよね」
「ああ。サウスパークだな」
「わざわざこんなところに作らなくていいじゃない。ここは富裕層専用のアスレチックってこと……?」
「そうだな。ここは、ある筋肉自慢が作り上げた城のようなものだ。千晴は、バラエティ番組を見るか」
「テレビの? そうね……タイミングが合えば……」
「このエリアは、バラエティ番組で優勝した著名人が自ら土地から選定し、作り上げた施設だ。土日はその筋の人間が交流を深め、日々鍛錬を行っている」
「へぇ……」

 さすが富裕層、一般人とはスケールが違うのね。

 私は番組名を頭で思い浮かべながら、そういえばパイロットの中にもその番組で常連と名を連ねる人がいると聞いたことがあったなぁと思い当たる。

 その人とは、航晴も交流があったはずだ。

「この施設、あなたもよく使うの?」
「いや。俺は専ら、見学しているだけだな。キャプテンはパイロットを引退したら、ここで修行を積んで大会に出場したがっていた」
「あの人が? もういい年なんだから。お母さんに心配かけないでほしいんだけど……」

 私は人っ子一人いないアスレチックエリアを眺め、キャプテンがあれを使って訓練に励んでいるところを想像した。
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