憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
3章・ベリが丘デート
ベリが丘を散策
「IDカードを拝見します」
やっと着いた……。
私たちが徒歩で姿を見せたからか、守衛は訝しげな視線をこちらへ向けている。
どうやら、本当に住人なのかと疑われているようだ。
私は慌てて首から下げていたカードを外し、待ち構えていた航晴に手渡す。
「三木様、天倉様ですね。いってらっしゃいませ」
本人確認を終えた門番は、左右の手に分けて手渡そうとしてくれる。
お礼を言って受け取ろうとしたが、横から伸びた手に奪われてしまった。
「ちょっと……」
「行こう」
航晴は自分以外の男から、それを受け取ってほしくなかったようだ。
守衛から2人分のカードを受け取った彼は、昨日と同じように私の首にぶら下げてくれる。
それはありがたいのだけれど、ひと目見てカップルですとわかるように手を繋いでくるのは頂けない。
簡単には外れないように、指を絡めて恋人繋ぎしているのが恨めしかった。
「私たちは許嫁であって、恋人ではないでしょ」
「これから夫婦になる予定だ。問題ない」
「ならないから……」
私たちは指を絡めた状態で、門の外に出る。
途中休憩を挟んでも、天倉の家からここまでは徒歩で一時間かからない程度だった。
会社帰りは登り坂なので、一時間半程度は見積もっておいたほうが良いだろう。
ノースエリアを隔てる壁から駅まではさらに歩いて十分程度はかかるのだから、徒歩通勤は現実的ではない。
何かあった時は、タクシーを使うほうがよさそうだ。
「ベリが丘全体を、徒歩で歩き回る体力は残っていないだろう」
「その気になれば、どうにでもなるわ!」
「無理するな。昨日の疲れも、まだ取れていないはずだ。どこへ向かうかは、櫻坂とBCストリートを歩いてから考えればいい」
「え? でも……」
「予定は未定だ」
朝食前に時間まで指定されたメモは、一体何だったのかしら……?
彼は私と恋人繋ぎしていることが嬉しくてたまらないのか、ご機嫌な様子であっさりとこちらの意思を尊重すると態度で表してきた。
それはとても喜ばしいことだけれど、本当にそのつもりがあるならば、ベリが丘に構える店なんて足を踏み入れたくないとしか私は言えない。
彼は本当に、それでいいのだろうか?