憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「大型ショッピングモールだ。十階建ての建物で、サウスエリアの一般住人向けと思われるレストランやショップが……」
「庶民派のショッピングモール?」

 私は目を輝かせて、彼を見上げる。

 ベリが丘の商業施設は目玉が飛び出るほどに物価が高いものだと思い込んでいたけれど、すべてそうしたものではないのかもしれない……!
 希望が見えてきたとワクワクしながら言葉を待てば、航晴はクツクツと声を上げて笑い始めた。

「……ちょっと……」
「く……っ。くく、すまない……。喜ぶポイントが、普通の令嬢と違いすぎて……!」
「どうせ私は、規格外よ」

 せっかく見に行きたいとその気になれたのに。
 笑われたせいで、台無しだ。

「ほ、本当に……すまなかった……。なんでも好きなものを買ってやるから、ぜひショッピングモールに……」
「ウインドウショッピングで充分よ」
「……買わないのか」
「私のウォークインクローゼットに、見知らぬ洋服が山程掴まれていたのだけれど」
「ああ……」

 冷静さを取り戻した彼は、思い当たる節があるようでなんとも言えない表情をした。
 犯人はキャプテンじゃなくて、まさか……。

「奥様から、千晴はあまり派手なものを好まないと聞いてな。買い揃えておけば、もったいないから身につけるだろうと、キャプテンに言われ……」
「あなたとあの人が選んだの?」
「そうだ」
「あのね……。実際身につけなければ、似合うかわからないのだから……」
「千晴はスタイルがよく、美人だ。モデルのように、なんでも上手に着こなせるはずだ」
「それはあなたたちが勝手に買った服を、身に着けている姿を見てからにして頂戴」

 全肯定マシンになりつつある航晴は、たとえ似合ってなくても褒めてきそうだけれど。

「では、帰宅したあとにすべて一度……」
「あれだけの量を、一日で脱ぎ着しろと? ファッションショーなんてゴメンだわ」
「いや、しかし俺は……」
「せっかくウエストエリアの近くまで来たんですもの。ショッピングモールを見学してから帰りましょう。あの建物を、目指せばいいのよね」
「あ、ああ」
「行くわよ!」

 先程まで航晴に先導されていたけれど、今度は私が彼を振り回す番がきたわ!

 庶民派ショッピングモールなら、任せなさい!

 心の中で気合を入れると、タジタジな航晴を引っ張りその場所へ向かって歩き出した。
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