憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 どうして拒むの。

 受け入れたら楽になるのに。
 笑顔を浮かべてたった一言お礼を伝えるだけで、満足するとわかっているでしょう?

 それなのに…………私は模範解答とは真逆の選択肢をし続けた。

「さすがに、そろそろ……」
「必要ないと、言っているでしょう……!」

 心にもないことを数時間伝え続けたら、ついに心のコントロールがうまくできなくなってしまったようだ。

 私の瞳からは、悲しくもないのに涙がこぼれ落ちる。
 航晴は血相を変えて、頬を伝う涙を左指で拭い取った。

「千晴……」
「もう、やめてよ。必要ないの。放っておいて。惨めになるだけだから……」
「……休憩しよう」
「話を聞きなさい……!」
「二つに一つだ。おしゃれなカフェで飲み物を注文するか、このまま帰るか」

 彼はいつだって、私に二つの選択肢を選び取れと迫る。

 三つ目の選択肢が、歩むべき正解だとわかっているのに。
 いつだって提示された二つの道からは、逃れられなくて――。

「あなたは、どうしたいの」
「迎えを頼もう。休憩してから……」
「……わかった」
「知り合いの店がある。こっちだ」

 航晴が私を誘ったのは、店名すら聞いたことがない個人経営のコーヒーショップだった。
 落ち着いた隠れ屋的な店内で、雰囲気は悪くない。

「マスター、ご無沙汰しております」
「おやまぁ、航晴くんじゃないかい! サウスエリアに移転してから、全然会いに来てくれないじゃないか」
「これからは、お会いする機会も増えると思います」
「そうかい? 期待しているよ」

 彼は店主と交流があるらしく、雑談を終えると窓際の席へ誘う。

 対面の席ではなく左隣に並んで座ったのが気がかりだったけれど……。
 別の場所がいいと告げる元気すらなく差し出されたメニュー表を眺めて、コーヒーを頼む。

「少し遠いが。窓の外から、海を眺めるといい。気分が落ち着くぞ」

 コーヒーが来るまでの間、勧められた通りに海を眺める。
 左側に見切れつつある海岸と砂浜よりも、中央に見えるヘリポートが気になった。
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