憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「ねぇ、あそこって……」
「ああ、まだ紹介していなかったな。秋に航空祭が行われるヘリポートだ。キャプテンは毎年LMM航空のブースを出展し、子どもたちを楽しませている」
「そんなのもあったわね……」
「今年は千晴と俺も、参加する予定だ」
「……何それ。そういうのって、広報やグランドスタッフが担当するもんじゃ……」
「CA体験やパイロット体験などの催しを開催しているからな。毎年、何人か駆り出される。子どもたちとの交流は、苦手か」
「当たり前でしょ! 大人相手より、ずっと緊張するわ……」

 たった一つの失言が、小さな子どもの夢を奪うことにもなりかねないのだ。

 普段は細心の注意を払ってどうにか対応しているけれど、朝から晩まで相手をするのは辛い。

「大丈夫だ。困ったことがあれば、俺がフォローしよう」
「……あなたにできるの? 子どもと接するのが、得意そうには見えないけれど」
「問題ない」

 がっしりとした身体つきに、真面目を絵に書いたような顔立ち。

 無表情だと何を考えているかよくわからない彼は、その見た目だけで子どもたちを怖がらせてしまうような気がしてならないのだけれど……。

それが事実であるかは、秋になるまでのお楽しみということかしら。

「……航空祭で、白黒はっきりつけましょう」
「ああ」

 彼が私の右手を握りしめると、目の前に注文したコーヒーが運ばれた。
 ティーカップを手に取り、ゆっくりと口づける。

 独特な香りと苦みが、私の弱気になっている気持ちへ活を入れてくれるような気がして、少しだけ心が軽くなった。

「ねぇ。私、思うのだけど」
「どうした」
「小さな子どもではないのだから、必要以上に世話を焼く必要はないのよ」

 あの人が娘である私になんでもかんでも買い与えようとするのとは、わけが違う。
 彼は家族ではなく、許嫁だ。

 結婚するまでは赤の他人で、施しを受ける理由がない。

「しかし、俺は……。君から選択肢を奪い、鎖に繋いで飼い殺している。その償いをさせてほしいだけだ」
「そうね。これは私を縛る、首輪のようなものだわ」

 私はティーカップを皿の上に戻すと、首からぶら下げられたIDカードを弄ぶ。

 天倉の娘である証明。

 これがなければ、ノースエリアに出入りを許されない。
 彼の許嫁であると名乗ることだって……。
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