憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「ねぇ。私を好きになったのと、許嫁だって聞かされたのは、どちらが先?」
「……気を、悪くしないでほしいのだが……」
「前置きをされた時点で、不愉快よ」
「……すまない」

 航晴は言いづらいのか、視線をコーヒーカップに向けて小さな声でボソボソと話す。
 聞き取りづらくて仕方ないけれど、どうにかその言葉を認識できた。

「旅客機のパイロットを目指す段階で、娘がいることを知らされていた。結婚を考えてほしい、とも」
「……そう」

 峯藤千晴は自身が結婚しなければならない相手。

 不仲であるよりはいい所を探して好きになったほうが、互いにいいだろう。
 そうやって作られた思いが、果たして本物であるのか。

 私には、それがよくわからない。

 過程はどうであれ、事実だけを認識するならば願ってもみないことだ。
 でも……。義務感で好きになったのだとしたら、心を許した途端に彼から梯子を外されてしまうかもしれない。

 航晴が悪い人であれば、結婚した直後から態度が急変するはずだから。

「警戒することは、悪いことではない。むしろ、俺以外の対応に関しては、千晴の考えが正しいのだから……あまり、負担に思わないでくれ」

 大好きで信頼していたお母さんですらも、味方ではなく敵に見える状況だ。
 この段階で接触してくる人たち全員に警戒心を表すのは正しいことだといわれても、安心できるはずもなかった。

 本当に私を愛しているのなら。

 胸の奥に押し留めた思いに、気づいてほしかった。

 彼が寄り添う素振りを見せてくれたら……こんな風に、拒絶し続けなくてもよかったかもしれないのに……。
 そうやって責任転換することでしか生きられないのだから、本当に自分が惨めで仕方ない。

「あなたにさえも、心を開くなってこと?」
「いや、そうではない。俺だけに、心を開いてほしいが……昨日の今日では、難しいだろう」
「ほかの人たちは? みんな敵なの?」
「……そうだな。世の中には、私腹を肥やすために他者を傷つけることすら厭わない不届き者がいる。そうしたものに、千晴が目をつけられないようにするためにも……」
「自分の身すら、自分で守れない女だと思っているのね」

 航晴と言葉を重ねるたびに、私は自分が醜い人間に思えてならなかった。

 住む世界が違う人。

 現段階ですらうまく会話が成立していないなら、結婚生活すらもうまくいきっこない。

 お先真っ暗だ。

 告白されて舞い上がり、口を滑らせなくてよかったと思う。
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