憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

夜桜

「疲れた……」

 ショッピングモールの駐車場で待機していたリムジンに乗り、後部座席に身体を預ける。
 外はすっかり日が落ち、暗くなっていた。

 やっとゆっくりと落ち着けるわね。

 私は目を瞑り、思考を巡らせる。

 あれこれ買い与えようとしてくる航晴と攻防戦を繰り広げ、カフェで甘い雰囲気になりかけたと思えば、邪魔されて……。
 ジェットコースターのように浮き沈みが激しい毎日を過ごし続けたら、ストレスで胃に穴が空いてしまいそうだわ。

 ――今口を開いたら、魂が出てきてしまいそう。

 そんなこちらの姿を見かねた彼は無言で、私の頭を肩越しに押しつけた。

 どうやら、自分を頼らないのが気に食わなかったらしい。
 力強く抱き寄せられ、胸がどきりと高鳴った。

 どれほどの時間、二人で寄り添っていただろう。

 数分であることは間違いない。
 私は窓の外に視線を移す。車はいつの間にか、櫻坂で停車していた。

 今日は三月三十日。
 四月一日の入学式を祝福するように、ぼんぼりに照らされた満開の桜が咲き乱れている。

 昨日はそれを楽しむ余裕がなかったけれど――。

「夜桜……綺麗ね……」

 今は少しだけ、それを眺めて感想を思い描けるようになった。

 これから私は、毎日のようにこの櫻坂に足を運ぶことになるのだろう。
 年月を重ねれば、ここにそれが咲いているのは当たり前だと処理されて、桜が綺麗という感想すらも思い抱けなくなるかもしれない。

「……ああ。俺と千晴の仲を、祝福しているみたいだ……」

 それはないわ。

 そうきっぱり宣言することがなかったあたり、成長したなと思う。

 そうして私たちは、天倉の家に戻った。
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