憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

「あ、ありがとう……ございます……」
「お嬢様のお口に合えばいいのですが……」

 シェフが不安そうにこちらを見守る中、私はナイフで小さく切り分けて口に運ぶ。

 噛みしめるほどに肉汁が口の中に広がり、ジューシーな味わいだ。
 油のしつこさもなく、食べやすい。

「おいしい……」
「ありがとうございます」
「遠慮はいらないよ。好きなだけ取り分けて食べなさい」

 そうはいわれても。

 こんな豪勢な食事を毎日口にしていたら、ブクブク太ってしまいそうだ。
 パイロットは健康第一な職業なのに、このような食生活を続けて問題ないのかしら……?

 私は少しだけ不安になった。

「今日一日彼と過ごして、どうだった?」
「別に……」
「航晴くんは素敵な男性ですもの。すぐにかけがえのない人になるはずよ」
「私と陽子のように?」
「嫌だわ。大吾さんったら……」

 両親は娘の前だというのに、いちゃついている。
 見えないところでやってくれと苛立ちを募らせれば、航晴が心配そうにこちらを見つめていることに気づいた。

「仕事中やプライベートで、ゆっくりと愛を育んでいけばいいよ」
「でも……将来のことを考えるなら……早めに愛し合うべきで……」
「そうだね。でも、大事なのは将来のことではなく、千晴の幸せじゃないか」
「……千晴の意思を尊重するなら、ギリギリまで仕事を続けて……。頃合いを見て家庭に入るのが……」
「お母さん? 私、仕事を辞めるつもりはないけど」

 娘の将来を案じ始めた両親の言葉を聞いて、黙っていられない。

 LMM航空は家族経営だ。

 キャプテンは最近社長に就任したばかりで、お母さんとの結婚を前社長に反対されていたらしい。
 文句を言われる筋合いがなくなったことや、身体航空検査に引っかかって航空業務禁止処分が下されたことにより、籍を入れる決意をしたと聞いている。

 会社のことを考えるなら、後継ぎとなる子どもがほしいと思うのは当然のことだけれど……。
 父親は後継者として航晴を指名しているため、急いで子どもを作る必要があるとは思えなかった。
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