憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 そうじゃなければ、ヒステリックに泣き叫ぶ女に優しい声で語りかけるようなことはしないだろう。

「自己嫌悪で、ぐちゃぐちゃなの……っ。一人にして……!」
「泣き顔は、見ないようにする」
「私の意思を、尊重するんじゃなかったの!?」
「……君の望む通りにしたら、どこかに消えてしまいそうで……心配だ。落ち着くまで、そばにいてもいいだろうか」
「……勝手に、すれば……」

 もう嫌だ。
 何もかも投げ出してしまいたい。

 その思いを読み取った彼は、許可を得ると背中から包み込むように抱きしめてくる。

 そばにいてもいいよと許可は出したけれど、触れてもいいなど伝えていないのに。
 怒鳴り散らす元気もなくて、私は静かに涙を流し続けた。
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