憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「あっ。どうしてここにいるんだって顔、してますねー。実はあたし、CAは世を忍ぶ仮の姿! 本業はお嬢様つきのメイドなんです!」
「逆でしょう、普通……」

 メイドとCAなら、どっちが就職しやすいかなど考えるまでもない。
 騒がしいのがきたとうんざりしながら、思わず呟いてしまった。

「申し訳ないのだけど、チェンジで……」
「ブブー。一回だけしかできませーん!」
「……何の話?」
「一昨日、母が嫌だって言いましたよね? だから、年の近いあたしがお嬢様のメイドとして指名されたんですけどー」
「……あれは、気が動転していて……」
「あたしよりも、母がいいってことですか!? 酷いですぅ! ヨーロッパから遥々、お嬢様のために駆けつけてきたのに!」
「単純に今日がオフなだけでしょ……」

 駄目だ。このハイテンションについていけない……。

 彼女が一緒だと、気が休まらないのは明らかだ。
 適当な理由をつけて、下がってもらおう。

「身の回りのことは一人でできるから。ダブルワークで疲れてるでしょ。今日は下がって」
「お嬢様……!」

 倉橋はキラキラと瞳を輝かせてこちらを見つめる。

 なんだか嫌な予感。

 そう警戒していたのだけれど、彼女の口から紡がれたのは意外な言葉だった。

「メイドにここまで優しくしてくれる雇い主なんて、聞いたことがありません! あたし、一生お嬢様に着いていきます!」
「とにかく一人にして」
「かしこまりました!」

 返事だけは威勢がいいんだから……。
 本当に勘弁してほしい。

 倉橋と別れた私は、喉がカラカラに渇いていることに気づく。
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