憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 聞き返して来たので、小さく頷けばマイクがブツリと遮断される音が響き、門が内側に音を立てて開く。
 これは、勝手に入ってもいいのかしら……?

 キョロキョロと辺りを見渡し、自分以外の人間がいないことを確認してから敷地内へ一歩足を踏み入れる。

 人感センサーつきなのでしょうね。
 完全に敷地内へ足を踏み入れると、勝手に門が閉まった。

 ――よかった。尻込みしなくて……。

 あのまま怯えていたら、航晴に開けてもらうまで身動きが取れなくなってしまうところだったわ。

 富裕層の住宅は一般家庭と違って、気を使わなければならないところが多すぎるから面倒ね。

 私が高級住宅に怯えながら母屋に向かって歩いていれば、重苦しく重厚なドアを内側から開いた航晴が、ものすごい勢いでこちらに走ってやってきた。

「何かあったのか!?」

 すごい険悪で怒鳴りつけられ、両肩を掴まれる。
 心配してくれるのはありがたいけれど、そこまでのことかしら。

 そう疑問を抱きながら顔を顰め、彼に告げた。

「大した用事ではないんだけど……」
「なんでもいい。聞かせてくれ」
「――笑わないでよ?」

 そんなに血相を変えて懇願するような話じゃないのに。
 前置きしたけれど、心配だ。

 航晴はきっと訪ねてきた理由を知れば、くだらなさ過ぎて呆れるだろうから……。

「ペットボトルの水を一本、分けてほしいだけなんだけど……」

 その時に浮かべた彼の顔は、一生忘れないだろう。

 何を言われているか、理解できないって顔。
 私が航晴の立場であれば眉を顰めて聞き返しているから、そこまで強い拒絶の言葉が聞こえてくることがなくてよかったと思うべきなのかもしれないわね。

「……わかった。落ち着いて、話そう」

 数秒固まったあとにどうにか事態を把握したらしく、気持ちを切り替えて隣に並んだ。

 ものすごい勢いで両肩を掴んでいた手が離れたことにほっとして、素直に頷いた私は彼の腕に自らしがみつき、三木邸のリビングに足を踏み入れた。
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