憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

愛し合う二人に触発されて

 金持ちのリビングは広々としていて、落ち着かない。

 頭上は当然のようにシャンデリア。
 明るい光の差し込む開放的な窓からは、よく手入れされた薔薇の咲き乱れる庭が見渡せる。

 ソファに腰かけぼんやりとその様子を見つめていれば、航晴が当然のように水を持って隣の席に座った。

 ペットボトルの水を想定していたけれど、どうやら富裕層は飲む水すらも高級品であるらしい。
 まったく見覚えのないおしゃれな英字で書かれた青い瓶入りの水を差し出され、どうしようかと思った。

「どうしたんだ」
「……相談しづらいんだけど……」
「遠慮はいらない。なんでも相談してくれ」
「……下ネタって、大丈夫な人?」
「ああ、まぁ……。問題ない」

 なんなのよ、その微妙な間は。

「身内の恥で、申し訳ないんだけど……」

 恥を忍んで、航晴に両親がリビングを占領して愛を確かめ合っていたのだと素直に打ち明けた。

「離れていた時間が長かったからな。その隙間を埋めたいのだろう」

 人目を憚ることなく愛し合うことに賛成している様子を見て、私は意外に思う。

 真面目そうに見える彼なら、一緒になって怒ってくれるような気がしたけれど――どうやら思い過ごしだったようだ。

「羨ましいか」
「別に……ただ、この年にもなって弟や妹ができたらどうしようかと思っただけよ」
「俺たちの子と一緒に、育てればいいだろう」

 航晴の口から、とんでもない言葉が紡がれた。

 CAを定年まで続けるつもりだとはっきり宣言しているのに、彼は当然のように近い将来子づくりをする前提で話を進めている。

 これはあまりよくない流れだ。

 話題を変えなければ、面倒なことになるだろう。
 そう考えた私が言葉を発するよりも早く――彼の真剣な眼差しが、こちらを射抜いた。

「その気があるなら、俺たちも愛し合えばいい」
「……心が通じ合っていないのに、身体だけでも繋がろうって? そんなことしたって、虚しいだけよ」
「身体から始まる恋も、あると聞くが」
「そういう提案をする人だとは思わなかったわ」
「……俺をなんだと思っているんだ……」

 眉を顰めた彼は、目頭を抑えて言葉を詰まらせる。
 どうにかそうした行為に縺れ込まないように、航晴の感情をコントロールしなければ流されてしまいそうだわ。

 そう考えた私は、素直な思いを口にすることにした。

 通称、飴と鞭作戦だ。

 普段ビシバシと態度の悪いことばかりを口にしている人間が甘い言葉を囁けば、きっと満足してこれ以上求めてくるようなことはないはずよ!

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