憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 このまま無理に襲いかかってくるのか、黙って従うのか――。

 じっと唇を噛み締めて耐える様子を眺めていれば、彼も覚悟を決めたのでしょう。
 ゆっくりと身体が離れていく。

 ――よかった。どうやら、危機は脱したみたいね……。

 完全に身体が離れたことを確認した私は、ごろりと右に転がり落ちるようにして体制を整える。

 水も手に入ったし、相談も終えた。
 これ以上変な気を起こされる前に、帰ったほうが良さそうね。

 そう思い無言で立ち上がって背を向ければ、後方から優しい声が聞こえてきた。

「今日は、俺を頼ってくれて嬉しかった。困ったことがあれば、逃げ込んでくるといい。いつでも歓迎する」

 航晴は思っていたよりも、紳士的であるらしい。

 自らの欲望よりも、私の意思を尊重してくれる。
 本人は優しくないと言っていたけれど、全然そんなことはなさそうだ。

 彼にだったら、安心して身を任せられる。

 あとは、あの人を父親として認められるか。
 用意されたレールの上を歩んでいく覚悟ができるかの問題になるでしょうね。

 航晴の思いがどうであれ。
 ここから先は、私の問題だ。

 彼に隠し続けた思いを伝える、その日が来たときは。

 両親が人目を憚ることなく愛し合う生活に限界が来た時、あの人の胸に飛び込もう。

 それまでは、一人で耐え続けてみせる。

「水、ご馳走様」

 何事もなかったかのように、私は航晴と別れた。
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