憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
朝食を取る彼の姿を見つめ続ける、空虚な時間を過ごす羽目になってしまった……。

 この無駄としか思えない時間を、どう処理すればいいのか……。
 遠い目をしながら、お母さんと彼の会話を耳にしていた。

「歩いて出社すると聞かなくて……」
「徒歩通勤だと……?」

 ベリが丘から空港までは電車で一駅の距離だけれど、さすがに自宅から空港まで歩いて通勤する気にはなれない。

 徒歩と電車を使ってが正しいのだが、何でそんなことを考えたのかと理解に苦しんでいる様子が雰囲気だけでも伝わってきた。

「……事前に説明していない、俺が悪かった。通勤の際は、運転手と連絡を取ればいい。タクシーに送迎を頼むイメージだ。間違っても、一人で帰宅してはいけない」
「私は大人よ。帰宅方法を指図される謂れはないのだけれど」
「ノースエリアの住人は、常に命の危険に晒されている」

 ノースエリアの出入り口に24時間365日守衛が監視や警備行っているのは、住人たちが安心してくつろげる環境を提供するためだ。
 彼らが不審者の侵入を防いでいるからこそ、私たちは何かに怯えることなくこの街で暮らせる。

 けれど――ここから一歩外に出てしまえば、安全は保障されない。
 そういうことなのだろう。

「ノースエリアの出入り口は一つしかないからな。著名人のゴシップを狙って、記者が物陰に隠れて様子を覗っているくらいだ。不審者が混ざっていてもおかしくはない」
「そんな、大げさな……」

 航晴は私を納得させるため、わかりやすい例えを使って説明してくれる。

 あなたはホームレス。

 人気のない場所に高級住宅街を出入りしている富豪が、一人でいたとする。
 その人間を傷つけて身代金を要求すれば、無限に金が手に入ると知ったら。

 襲わずにいられるか?
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