憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「どれほど生活に困窮していたとしても、犯罪者にまで落ちるつもりはないわ!」
「それは正常な判断だな。人は追い込まれると、何をしでかすかわからない。千晴のように、誰もが正義感に満ち溢れる人間ではないんだ」
「死にたくないなら、あなたと通勤を共にしろってこと……?」
「そうだな。もちろん、都合が合わないときもあるだろう。その際は倉橋の娘と共にいろ」
「それも駄目だったら?」
「天倉の雇っている運転手の車に乗れ。顔と名前は、リスト化してあるはずだ。スマートフォンの中に保存して、いつでも見比べられるように」
「そこまでするの?」
「山奥に連れ去られて捨て置かれても構わないなら、無理強いはしないが」

 航晴に指摘されて悪い想像を頭の中で思い描くことで、ようやくことの重大さに気づいた。

 たった一度の選択ミスが、惨劇につながる可能性があるのなら、安全な道を歩むことはできないとごねている場合ではないだろう。
 ここは大人しく従うべきだ。

「……わかった。今月のフライト予定は、これから発表されるよね。どうなるかわからないけど……」
「心配ない。できる限り一緒の便に搭乗できるよう、配慮してもらっている」

 ――やっぱり、職権乱用しているのね……。

 頭を抱えたくて仕方なかったけれど、命の危険があるかもしれないと宣言されている以上は拒めない。

 私は渋々運転手のリストや連絡先を受け取ると、彼と隣同士に座りリムジンに乗って出社することになった。

「航晴くんと、喧嘩しないようにね」
「子どもじゃないんだから……」

 心配で仕方ない母に見送られ、私たちは天倉の家をあとにした。
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