憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「高級な椅子よりも、私にふさわしいものが見つかったわ!」
「千晴……。それは椅子として利用するものでは……」
「ほら! 全く問題ないでしょう!」

 両手で抱えていたものを床に置き、その上に乗って椅子代わりになるとアピールする。

 私が座っているものは、バランスボールだ。
 空気を入れて膨らましただけのそれは、庶民でも買える値段であることから、馴染み深かった。

「両手足を離したら、頭を……」
「小さい頃はこの上に乗って、よく遊んでいたの。バランスを崩して転がったりしないわ。だから、大丈夫よ」

 本当に大丈夫なのかと、航晴は不安そうに窓ガラスを通してこちらを見つめている。
 ウォーキングマシンで運動しているからか、彼の額からは汗が溢れ落ちた。

 水も滴るいい男とは、こうした光景のことを言うのね……。

 感慨深さを感じた私は、航晴に対する思いを捨て去ることなどできそうにないと覚悟を決めた。

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