憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「あなたの格好を見て、好意的な思いを抱くとは一ミリも思わなかったみたいね」
「ああ。申し訳ないが、とても驚いている。千晴は俺に興味を抱いていないようだったからな……」
「迷惑なら、いいわよ。この思いは胸の中にしまっておくから」
「いや」
嫌?
否定の言葉かと思い顔を上げれば、熱っぽい瞳でこちらを見つめる彼と目が合った。
航晴は私と瞳がかち合ったことを確認すると、花が綻ぶように優しく微笑む。
「戸惑ってしまい、申し訳なかった。君の気持ちは隠すことなく、曝け出してくれ。今の反応は……千晴の隣に並び立つ男としてふさわしい存在になれたようで、俺も嬉しい」
「そ、そう。私も……。あなたの嬉しそうな姿を見られて、よかったわ」
なんだか照れてしまい、しどろもどろになりながら反応を返す。
ホテルベリーズの最上階エリアはガーデンスペースとして開放されており、半個室のような状態だ。
ひと目を気にせずゆっくりとくつろぎながら、花火を見られるようにとの配慮だろう。
本来であればシェフやホテルスタッフもこのプライベート空間に立ち会い、バーベキュースペースで調理をしてくれるのだけれど……。
私が気にするだろうからと、断ってくれたようだ。
目の前には、下ごしらえの済んだ高級食材の山。
見ているだけでもクラクラするけれど、誰に遠慮する必要もなく自分の好きなものを焼いて食べられると思えば、悪くはなかった。
紙ナプキンを首につけた私は、比較的手に取りやすい野菜をトングで手に取り焼いていく。
その真横で遠慮はいらないとばかりに航晴がステーキ肉を複数焼き始めたのには驚いてしまったけれど……。
調理された肉を残すわけにはいかず、私は渋々おいしく焼けた最高級ステーキに舌鼓を打つ。
おいしい料理を堪能していれば、あっという間に花火の時間だ。
夜空には、美しく光り輝く大輪の花が咲き始めた。
半個室の状態だからか、花火が打ち上がる際の音も随分と軽減されているように感じる。
この年になって人混みを避け、特等席から花火を間近で見られるなど思いもしなかった私は、瞳を潤ませて花火を見つめる彼の横顔を眺めた。
――ああ。やっぱり好きだな。
黙々と肉を焼いては食べ進めていた航晴は、真剣な眼差しで打ち上がる花火を眺めていた。
感情を読み取れない時のほうが多いけれど――許嫁として過ごすようになってから四か月近くも経てば、彼が何を考えているかくらいは予想がつくわけで……。
「ねぇ、気が変わったって言ったら、どうする?」
心に秘めたる思いを打ち明けるのは、今しかない。