憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「こんな高い指輪をお揃いで身に着けていたら、すぐに私が妻だってバレてしまうじゃない。傷でもついたら……」
「……わかった。千晴が業務中に身に着けるものは、サンプルの中から買い取ろう」
「……ここから? 私が選ぶの?」
「ああ。正式なものは、オーダーメイドで作成する。こちらのデザインは……」
「好きにして」
「わかった。値段は気にするな。気に入るものがなければ、新しいものを……」
「こ、この中から選べばいいのね? 選ぶから。わざわざ来ていただいた皆さんのお手を、煩わせるような提案はしないで」

 宝石店の外商は、往復するくらいどうってことないので遠慮しないでくれと申し出てくれたけれど、仕事を増やすわけにはいかない。
 パパッと、一生身に着けられそうなデザインを探さなければ……。

「指輪にはイニシャルと共に、LMMのロゴを入れてくれ。ダイヤモンドのグレードはフローレス。Dカラー。クォードリリオンカット」

 真横ではコーヒーのカスタムを注文するように、航晴が外商員に魔法の呪文を唱えている。

 飲み物であれば数1000円で済むけれど、宝石商相手にあれだけの注文をつけたら恐ろしい金額になることくらいは、素人にだってすぐにわかった。

「たった二日で、どれほど無駄遣いをすれば気が済むのよ……」
「何を言っている。これは無駄遣いではなく、未来への投資だ」
「……もういいわ。好きにして……」

 真面目に止めることすらも、馬鹿馬鹿しくなってくる。

 意気揚々とあれこれ相談する航晴の横顔を眺めていた私は、ああでもないこうでもないとサンプルを身に着けては離しを繰り返し、どうにか一つの指輪を選んだ。

「これにします」
「では、旦那様にも……」

 まだ結婚してないのだけれど……。
 航晴を旦那と称され、なんだか気恥ずかしくなり顔を赤くする。
 今更ながらに実感が湧いてきたのだ。

 私、結婚するのね。
 航晴は私の、旦那様になるわけで……。

「千晴なら、それを選ぶと思っていた」
「……航晴も、気になっていたの?」
「シンプルなデザインだからな。ただ、一番値段が高いので、尻込みするのではないかと……」
「たか……」

 これが?

 人差し指に嵌めたまま指輪を眺め、聞くんじゃなかったとそれに手をかけ引き抜こうとした瞬間のことだった。

 彼は優しくそこに触れると、首を振る。

「どれも値段に大差はないからな。気にしなくていい。一度選んだなら、返品は不可だ」
「……そうね」

 大小二つのプレゼントが目の前にあるとして。

 大きいほうが高額とは限らない……そういうことなんでしょうね。
 これからは高そうなものを選ぼうと、固く誓った。

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