プルメリアと偽物花婿

8 鍵をかけた過去



 朝だ。そう気づいたときに目の前にあったのはニコニコと私を見ている和泉の顔だった。
 ゆるく腕を回されていて抱きしめられていることに気づく。
 違和感は肌に触れた感覚。
 ……素肌が触れ合っていて、くすぐったくて温かくて、すべすべと気持ちいいその感覚に、小さく悲鳴をあげてしまいそうだ。

「おはようございます」

 そう言っておでこにキスが落とされると、昨夜のことを思い出して一気に目がさめる。

「おはよう」
「今日は土曜日ですからね。のんびりしましょう」

 和泉がもそもそと動くと、肌の感覚が更にわかってしまってどぎまぎとする。

「先輩、照れてるんですか。可愛いなあ。あ、冷房効きすぎてます?」

 恥ずかしくて薄手の布団を手繰り寄せた私に和泉は笑いかける。……いつもニコニコしている和泉だけど、今日はめちゃくちゃ上機嫌なのでは……?
 和泉はずっと頬が緩んでいて、どうやら勘違いではないらしく。
 その理由はわかっているので、また恥ずかしくなってしまう。

「今日から一緒にこの部屋で眠ってくれますか?」
 
 和泉の部屋のベッドはダブルベッドで、二人で眠る分には全く問題はない。

「先輩ベッドなくて腰痛いって言ってたじゃないですか」

 ……そう言われて、意識してしまうのはベッドではなく腰だ。
 生理痛と近いような、異なるような重さが腰のまわりをまとっている。その痛みの理由にまた身体の温度があがる。

「だって先輩、家出ていっちゃうんですよね。それまではここで眠ってくださいよ、だめですか……?」

 そんな可愛い顔をしないで欲しい。頷くしかなくなるから。

「やった。これで毎日先輩の寝顔が見れますね」

 自然にうなずいてしまったらしい。でもこのベッド、本当にふかふかで気持ちいいし……そんな言い訳を浮かべてみるけど。
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