プルメリアと偽物花婿
 私だってこうして和泉に抱きしめられるのが、素直に嬉しいのだから。頷く以外、ない、と思う……。

「ずっと照れてる先輩が可愛い。キスしていいですか」

 返事を待たずに和泉がキスを始める。優しいキスを続けていくから

「待って待って。お腹すいちゃった。今何時?」
「十時ですよ」
「もうそんな時間?」
「昨日寝るの遅かったですしねえ」

 和泉はそう言ってあくびをする。何の気なしに言った言葉でも、また私は反応してしまう。いちいち反応するところに完全に恋愛偏差値の違いが出ている。

 ……昨日グレーのソファで、初めて、それがそうなって…………、その後、和泉の部屋に運ばれた。
 軽々とお姫様抱っこというものをされて、初めて和泉の部屋のベッドにおろされてから…………まあ、えっと、しばらくは眠らずに過ごしたというわけです。

「今日は何か予定ありますか?――不動産屋に行くのだけはやめてくださいね。俺たちが本当に恋人になれた翌日にそんな無粋な真似は」
「あはは。和泉って結構ロマンチックだね」
「……長年の恋が実ったんですから、それくらい許してほしいですね」

 和泉は拗ねたように言うと、もう一度キスをしようとするから

「長年?」

 引っかかったワードを呟いてみると、和泉は一瞬困った表情をしてから

「半年片思いしてれば結構長くないですか?」
「そうかなぁ? ――でもわかった、この土日は不動産屋にはいかない。予定私はないよ、和泉は?」
「俺もないです」
「一緒に過ごそっか」

 私が言うと、和泉は嬉しそうに抱き着いてくるが、晒された背中に腕を回されると、びくっと飛び上がりそうになる。

「一日ここで過ごしてもいいですよ」
 
 私の反応を見て和泉が楽しそうに言うから、

「朝ごはん食べよう!」と言って慌てて服を――

「……そうだ、リビングだった」
「俺のシャツでも着ますか?」

 相変わらずニコニコしている和泉はウォークインクロゼットに向かって嬉しそうにシャツを選び始めた。

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