プルメリアと偽物花婿

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「ハワイの記事、かなり好評だから第二弾も書いてもらえる?」

 編集チームの同期から打診を受けた私は、データフォルダの写真とにらめっこしていた。
 
 私たちの部署が運営している女性向けアプリ『andU』は雑誌的な側面も大きい。コンセプトの『女性のキラメキに寄り添う』に、ハワイ旅行記はマッチする。
 アプリ内の特集記事を担当している同期に、ハワイの写真を渡したところ簡単でいいから記事を書いて欲しいと頼まれた。ざっくりとした私の文章を、編集チームがプロの文字に直してくれるので叩きを作成するだけでいい。私と和泉がハワイで訪れた店は人気でお洒落な飲食店が多かったし、実際の体験記なこともあり好評だったらしい。
 
「これどうですか? ウエディングレポにして」

 隣から和泉が私のスマホを覗き込んで指をさす。

「……しません。今回は朝食特集にするの」
「全世界の人に見てほしいのになあ」

 和泉はそう言って私の肩に頭を預けてくる。――ここは会社ではなく、リビングだ。
 そして和泉が指さすのは、私たちの結婚式の写真。つい昨日、データが納品されたばかりだ。緊張して固まった顔の私と、モデルのように決まっている和泉の写真がたくさん届いた。
 あの時は偽物の新郎新婦だったけど、こうして振り返ってみるとハワイの思い出はどれも楽しくて、すべてが偽物ではなかった。そう思うと写真を見返すだけであたたかな気持ちになる。

「早くドレス姿、見せてあげたいですね」
「……うん。――あ、そうだ。日にち15に決まったよ」
「じゃあ14から帰りますか」
「そうだね」

 14に帰省して自分の実家に宿泊し、15日に私の家族に挨拶、また実家に宿泊して16日に戻るというスケジュールに決まった。こういう時、地元が同じだというのは楽だ。
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