プルメリアと偽物花婿
 今回は私の家族に会うだけで和泉のご家族に挨拶をするのはまた改めて、ということになっている。

「和泉の両親に挨拶しなくてもいいのかな。同棲してるし……」
「うちは離婚していて母しかいないし気にしませんよ。――俺、地元のことで一つ話があります」
 
 和泉が珍しく緊張した顔を向けるので、私も身構える。
 
「うちの家は地元ではあまり評判が良くなくて……」
「和泉の家が?」
「はい。実は離婚して苗字が変わっているんですが、元々の名前は山岡といいます。地元では少し有名で、その名前に覚えはありませんか?」
「やまおか……」

 その名前に、胸にずしんとおもりが落ちる。
 今の話には全く関係がないのに。

「山岡……会社? 何かあったかな? あんまり評判がよくない会社とか?」

 思い浮かんだ顔を振り払って、地元で有名な会社や工場を思い出してみるが名前に心当たりはない。
 
「先輩は知りませんでしたか」
「うん。不祥事とかそんな感じ?」
「まあ、そんなもんです」
「そういうのはあんまり気にしないと思うから大丈夫だよ」

 私は動揺を悟られないように笑顔を作った。和泉が少し暗い顔をしているから不安を取りのぞきたいと思ったのも、うちの家族が細かいことを気にしないのも本当だった。

「無理に話さなくてもいいよ。どっちにしても親御さんと和泉は別でしょ」
「父と母は離婚していますし、大きな問題があるわけではないんです。万一、悪い印象があれば俺自身を見てもらって払拭できるようにしますね……!」
「あはは、大丈夫だよ」
 
 私は笑ってスマホのデータフォルダを和泉にも見せながら「アサイボウルの写真、どっちの方がいいと思う?」と元々の話に戻した。
 ――定番の苗字なのにいまだに反応してしまうのが情けない。動揺はしばらくおさまらなかった。

 
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