プルメリアと偽物花婿
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私が帰ってきた日は、鶏のから揚げの野菜あんかけが食卓に並べられている。それからきんぴらごぼうとサツマイモの入った味噌汁も。これを食べると実家に帰ってきたなあと痛感する。
「おばあちゃんがきんぴら炊いてくれたのよ、味噌汁も」
「もうあんまりご飯作らないって言ってたのに」
「凪紗が帰ってきたからねえ」
「ありがとうおばあちゃん。おいしい」
甘みのある味噌汁は懐かしく変わらない味だ。まだこの味噌汁が飲めることにこっそり安堵する。
「よかった。凪紗、仕事はどう? しんどくない?」
おばあちゃんは微笑むと、今日八回目の質問をした。
「まあまあ楽しくやってるよ」
「味噌汁甘すぎた?」
「ううん。美味しいよ」
私の答えにおばあちゃんは満足げな表情になり、味噌汁をすする。
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食事が終わり、お母さんの洗い物を手伝っていると
「山田さんは今日仕事だったの? 凪紗も明日でもよかったのに」
ぎくり。お母さんの質問に手が止まる。メールや電話ではうまく説明できる気がしなくて、ひとまず山田さんのことは話さずに帰ってきた。お母さんは特に疑うこともなく、娘だけ前入りしたものだと思っている。
明日、和泉が登場してから説明するわけにもいかない。何度も練習していた言葉を思い出す。
「えと、実は……山田さんとの結婚はなしになったんだ」
もったいぶっても仕方ない。結論から話すことにした。案の定、お母さんはあんぐりと口を開けている。
「え? ハワイで喧嘩でもした?」
「あー……。ハワイに行く前に婚約破棄されてしまって」
「婚約破棄!? じゃああのドレスは!? 合成?」
お母さんが驚くのも無理はない。ハワイの写真も送っている。
「順を追って説明すると……まずハワイに行く前に山田さんと婚約破棄になった。私に過失はないからそこは安心して。山田さんとも和解してる。それで山田さんと別れた後に、別れた後だからね!? 恋人ができて、ハワイはもったいないからその人と行った。もったいないから挙式もした。彼とは一応結婚を前提に付き合ってて、明日は新しい恋人が来る予定」
ざっと説明したけど、お母さんは理解するのに時間がかかっている。