プルメリアと偽物花婿
「本当に先輩が意識してくれてる……! その通りですよ。凪紗先輩がハネムーンに行っている間、断食道場に入ろうと思うくらいには好きです」

 断食道場に入るくらいには、というのがどれくらいの愛の深さなのかはピンとこないけど。
 和泉が私のことを好き……? 今までそんな素振りはなかったように思う。あくまで先輩・後輩の関係だったのに。

「だけど私恋愛する気、今は全然なくて――」 
「知ってますよ、それでいいです。だって俺ゲームオーバー寸前だったんですよ、先輩が結婚するなんて。今はボーナスステージに突入したんですから」

 ニコニコ顔のまま、そう言われると毒気が抜かれる。
  
「ひとまず、花婿代理の役目はしっかり果たしますから! そろそろリハーサルメイクの時間ですよね?」
 
 和泉は私の肩から手を離すと、時計を確認してそう言った。
 
「リハーサルメイク……」
「先輩、時差ボケしてます? 先輩のこの旅行のメインの目的は挙式ですよね」
「ア……、ソウデシタネ……」

 だめだ。昨日からもう頭が全然回っていない。そう、今回は単なるハネムーンじゃない。今回の旅行のメインイベントは挙式!
 だけど山田さんに断られた時点で挙式もなくなると思っていた。
 今日は確かに挙式前のリハーサルメイク兼最終打ち合わせがあったけれど。和泉はいつのまにか今回の旅行日程表をきちんと読み込んでいたらしい。

「しましょうよ、ハワイで挙式」

 和泉はさらりと言った。またしても、ランチを食べよう、くらいの軽さで。
 
「和泉と、私が?」
「そうです。今キャンセルしたって費用は返ってきません。それに先輩。ウエディングドレスの写真が必要なんじゃないですか?」

 私は言葉に詰まった。私のウエディングドレスの写真。それは確かに、私の欲しいものだった。

「凪紗先輩。俺は本当に先輩と結婚したいですけど、先輩に今そんな気がないことはわかってます」

 和泉は真面目な表情に切り替わると、私と向き合った。
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