プルメリアと偽物花婿
今思えば、それは山岡先生の十八番のトークだったんだろう。背伸びして、他の子よりも大人っぽいと思ってもらいたい年頃だ。私は一気に舞い上がってしまった。
それから何度も山岡先生は私を送ってくれるようになった。夏期講習が終わり塾の時間が夜の時間帯に戻ると、家の近くのコインパーキングに停めて少し話をするようになった。その頃には毎週木曜日、一緒に帰るのがお決まりになっていた。
先生の前では大人っぽく振る舞おうと意識していたから、頭を撫でる手が頬に移動して初めてのキスを奪われても平然とした顔を取り繕った。
キスをする。それは彼氏と彼女なのだと私は思い込んでいた。
それからの私たちは週に一度、コインパーキングでキスをして、それ以上の行為に耽った。
「どうして最後まではしないんですか」
「凪紗のことを大切にしたいんだ。卒業するまで我慢してるんだよ」
私は本気で大切にされると思い込んでいたのだ。本当に十七歳の生徒を大切に思うのなら一切手を出したりしないと気づいたのは、自分が大人になってからだ。
「でも私卒業したら東京に行っちゃうんですよ……もう地元に残っちゃおうかな」
「こらこら。――というか、凪紗が上京するのに合わせて俺も一緒に行こうと思ってるんだ」
「えっ」
「さすがにこの町では凪紗と堂々と愛し合えないからね。頑張ろう、受験。二人のために」
私は完全に先生に溺れていた。激しく燃え上がるこの気持ちを愛だと思って。
東京で先生と二人で暮らす。この秘密の関係も地元を出てしまえば問題ない。二人の未来のために頑張るんだ。受験勉強の合間に同棲カップルの投稿を見て励まされた。
――山岡先生が、私を選んだ本当の理由はこの町を去るから。後腐れがなかったからだ。恋心を利用されていたことに気づいたのもずっと後だったのだけど。