プルメリアと偽物花婿

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 地元に帰ってあたたかい気持ちになったのは初めてかもしれない。
 特に家族と関係がいいわけでもなく、いい思い出があるわけでもない。虐めはじきになくなったけど、特別に仲がいい友達がいるわけでもない。
 
 凪紗先輩のご家族は想像していたとおりの人たちだった。この人たちから凪紗先輩の優しさや距離感が生まれたのだろうと納得する。先輩が大切なものを俺も大切にしたい。

「先輩。俺たち実は過去に出会っていたって知ってましたか?」

 新幹線にて。気持ちが緩んでいた俺は過去について話をしてみたくなった。
 
「えっ!? ほんと?」
「はい。やっぱり覚えてなかったんですね」
「私たち中学の校区、隣だもんね。どこで出会ってたの?」 
「俺たち実は塾が同じだったんですよ。そこで俺たち会話してるんです。先輩毎週空き教室にいましたよね?」

 先輩が俺のことを覚えていなくても、掃除道具入れで中学生を見つけたことくらいは覚えているかもしれない。そう思って俺は期待を込めて言った。

 先輩は驚いたようにこちらを見ているから、少し思いあたるところがあるんだろう。

「掃除道具入れに閉じ込められてた中学生覚えてます?」
「あ――うん。覚えてるかも。……覚えてる」
「あれ俺なんですよ。閉所恐怖症になるきっかけにもなったあの時に扉を開けてくれた先輩のことほんとに女神みたいだと思ったんです。あの時は中学生の高校生への憧れもあって――」

 覚えてると言われて嬉しくて続けてしまったけど、先輩の顔色は悪い。……動揺してる?

「中学生の可愛い恋ですからね? 先輩をストーカーして東京まで追いかけたわけじゃないですよ。職場でたまたま再会して――」
「ふふ、わかってるよ」

 そう言うと先輩は笑顔を作った、下手くそな笑顔だ。

 心がざわめく。先輩との距離は近いのに、まるでハワイ初日に戻ったような――そんな先輩との距離を感じる。
 
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