プルメリアと偽物花婿
9 プルメリアと未来
長期休暇あけはいつだって忙しい。今週はバタバタと過ぎた。
正直助かったところはある。仕事に没頭していれば余計なことは考えなくても済むし、忙しいのも嘘ではない。
金曜日の帰り道。少しだけ足が重い。菜帆と飲みにでも行こうと思ったけど断られた。明日から……土日は和泉と共に過ごすことになる。
山岡先生と話したこと、和泉と私が過去に出会ったことは、誤魔化せないほどに自分の心を重くしている。
特に和泉の告白は衝撃だった。和泉が想っていてくれたことは嬉しい。それは中学生の淡い恋で、当時の憧れが今の恋に繋がったというのも嬉しい。
……だけど。和泉が憧れてくれていた私は。あの空き教室で山岡先生を待っていたのだ。和泉にとっての愛しい思い出は、きれいなものではない。和泉が憧れてくれていた私は汚い。
帰宅すると日付はとっくに変わっていて部屋は暗かった。和泉が既に眠っていることに少しだけホッとする。
シャワーを浴びて和泉のベッドに入ると、規則正しい寝息が聞こえた。後ろからゆるく抱きしめてみると、寝ぼけながら手を重ねられた。その温度に少しだけ泣きたくなる。
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目の前に和泉の顔があった。――朝だ。珍しく和泉はまだ眠っていた。朝に強い和泉の寝顔を見たことはほとんどないからレアだ。
起き上がってみてもう一度和泉を見る。色素の薄いサラサラの髪の毛が朝の光に照らされるから、髪の毛に少しだけ手を差し込んでみる。さらりとした髪の毛をかきあげると、あどけない寝顔に思わず頬が緩む。
「何してるんですか」
「えっ、起きてたの」
突然和泉の目がぱちりとあくと、にやりと笑って私の手を引っ張る。シーツに飛び込んで、和泉の腕の中にゆるりと招き入れられる。
「びっくりした」
「おはようございます」
私の額にキスを落としてニコニコしている。
「安心しました」
「何が?」