プルメリアと偽物花婿
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「あ、れ……」

 マンションのエントランスにまで降りてきた私は、オートロックの向こう側にいる和泉を発見した。
 ドラマのように街中を探し回る覚悟をしていたから、拍子抜けではあるけどすぐに見つかってよかった。
 和泉は私に気づくと、困ったような笑顔を見せる。

「和泉、良かった! ここにいて」
「……恥ずかしいな……」

 オートロックを抜けて駆け寄ると、和泉は眉を下げる。

「すみません。大人げないと思ってすぐに戻ろうと思ったんです。……けど、鍵を忘れてしまって」
「そっか。ふふ、戻ろう」
「はい」

 私は和泉の手を取ると、すぐに部屋に引き返した。
 扉を開けた和泉は靴箱の上に置いたプルメリアのプリザーブドフラワーに気づいたらしい。

「和泉ブーケを残せるように注文してくれてたんだね、ありがとう」
「せっかくなので思い出に残したいなと思って」
「プルメリアの花言葉、このカードで知ったよ。嬉しかった」

 心からのお礼を続けてみるけど、和泉の表情は曇ったままで玄関からも動かない。

「すみません。俺、贅沢になってました。そのブーケをお願いしたときは、本当に先輩の幸せだけを願っていたんです。恋人になりたいとか本気で思ってたわけでなく。先輩が幸せになれるなら、と思って。でもこうやって先輩と一緒にいる時間が長くなればなるほど、もう先輩のこと離せなくなってしまいました」

 和泉の瞳は先ほどのように不安に濡れている。私は和泉の手を取った。

「私も和泉の幸せを願ってるよ」
「別れたくないです」
「待って待って、別れないよ! えっと私の言い方が悪かったね!? ――私は和泉といる時が一番幸せだよ。だから離されると私も困るよ」

 語尾が恥ずかしさで震える。私は和泉の大きな身体を抱きしめてみる。私だって和泉のことを離したくない。
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