プルメリアと偽物花婿
「あー……」
和泉はそう呟くと私の肩に自分の頭を乗せる。「あーそういうことかあ」となんだか納得したような口調で。
「あ、本当に知らなかったんだよ……! まさか二人が兄弟なんて」
「そりゃそうでしょうね。俺と先輩は特別接点があったわけでもないですし、年齢も離れてましたし、苗字も違いますし、顔も似てないですし」
「講師と生徒って最悪だよね、だからあの時和泉に憧れてもらえるような存在ではなかったの」
和泉は顔を上げると私をじっと見る。
「なるほど。先輩の考えていそうなことがわかりました。過去の自分に自己嫌悪して、和泉に好きになってもらう資格はないとかそんな感じですね」
「……そ、そうです……」
「はあー。本当にどうでもいいことでまた悩んでたんですね。早く言ってくれたら良かったのに。最悪なのはどう考えても生徒に手を出す講師でしょうが」
和泉は呆れた表情を私に向ける。
「大人になってから思えばそれはそうだけど、当時の自分が恥ずかしいよ」
「未成年に手だしてるんですから、普通に被害者ですよ先輩は。まあ元カレが俺の兄とか言えないか。でもそうかー、よりによってあいつかー。でも先輩の話としっかり噛み合いました」
「私の話?」
「覚えてないですか? 菜帆さんとの飲みでよく過去の恋愛について話してましたよ。青春の自分をすべて捧げたって」
「そんなこと言ってたっけ」
「はい。――でも先輩。初めてって言ってなかったけ?」
和泉がそう訊ねるから、恥ずかしくなってしまう。
「最後までは手出さないようにしてた、一応生徒だから」
「はあ? 先輩の話だと結構手だしてたと思うんですけど? きもいな、今から訴えてやろうかな」
菜帆に恋愛についてよく聞かれたから、講師と生徒ということは隠しつつ色々話したかもしれない。……しまった。
「先輩が気まずくなった理由はわかりました。他に何か隠し事、ないですか?」
「……先生と再会した日の夜、うちまできたの先生」
「はあ?」
和泉は眉を寄せて険しい顔をする。