プルメリアと偽物花婿
「会ったんですか?」
「家に来るって言うから、ファミレスで話をしました」
「先輩、それはさすがに怒りますよ」
「……ごめんなさい」
……それもそうだ。兄とか関係なく、元カレに会っているのだから。なんの弁明もできない。
「あ、違うんですよ。別にやましい気持ちとかを疑ってるわけじゃないんです。夜に何考えてるかわからない男と会うのは危険だからです」
和泉の真剣な表情に胸が熱くなる。和泉は私を疑わず、責めず、ただ純粋に心配してくれてる、いつだって。
「今度からは和泉に相談します」
「よろしい。それから連絡は?」
「特にないよ」
「先輩が綺麗になりすぎてて惜しくなったんですかね」
「それにしては連絡ないけどね。――これからあんまり地元には帰りたくなくなったけど」
先生の意図は読めないけど、私のことが好きだとは思えなかった。
もしかしたら一晩くらい遊んでやろうと思ったのかもしれないし、からかわれたのかもしれない。
「大丈夫ですよ、兄は地元を出ていくんで」
「そうなの?」
和泉は顔を歪めてからため息をついた。
「兄は塾講師を辞めて父と義父の事務所の手伝いをしていたんです。兄と結婚した方のお父さんも議員で。兄も政治の道に進む予定だったんですけど……事務所の女性と不倫して最近離婚したんです」
「うわあ」
「両家の父が怒って追い出すのも無理もないです。彼らは地元のイメージも大切ですからね。兄は家族から絶縁されますし、俺もそうすることにしました」
……そんな人に夢中になっていたと思うと、やっぱり私は自分のことが恥ずかしい。過去の自分だとしても。
「最後に俺と先輩にいやがらせしてやろうと思ったんですかね、最悪だ」
だけど、目の前に本気で怒ってくれる人がいて。あの時の私を、今の私を好きだと言ってくれる人がいる。
和泉が好きな人、私を、そんな卑下しなくてもいいのかもしれない。
「もうなんにもないですね?」
「ないです」
「兄から連絡きたら必ず教えてください」
「わかりました」
和泉は私の答えに笑顔を作ると、私を膝からベッドにおろした。そしてそのまま押し倒される。
「えと……、話は以上だよ。もう吐くことはないよ」
「そうですか」
和泉は素知らぬ顔で私に口づける。唇に何度も口づけて、首筋へと降りてくる。
「話は終わった……よね?」
「はい、終わったからキスしてます」
「フレンチトーストは?」
和泉は鎖骨にキスをしながら、私を見上げる。さっきまで可愛い子犬の目をしていたはずなのに、その熱さに胸がぎゅっと締め付けられる。
和泉は答えてくれず、私の唇を何度もふさぐからもう質問はできなくなって、フレンチトーストはお昼ご飯になった。