プルメリアと偽物花婿
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「凪紗先輩、ここもバルコニーがありますよ!」

 バルコニーから和泉の嬉しそうな声が聞こえる。その声に私の頬も緩む。私もホテルの敷地に一歩踏み入れてからずっと夢心地だからだ。

 時は過ぎ、ゴールデンウィーク。私たちは沖縄にやってきていた。

「ハワイ旅行、恋人として行きたかったなあ。あ、沖縄とかどうですか!?」という和泉の思い付きをもとに、山田さんの百万円をぱーっと使うことにしたのだ。
 まあもらったというか、厳密には返してもらった分だけども……。こういうものはさっさと使うに限る!

 ハワイで宿泊したホテルが沖縄にもあるということで、迷わず決めた。
 想像通りの素敵なホテルで、ハワイを思い出すオーシャンビューと明るく白い室内。すぐにハワイを思い出した。和泉との二人きりの初めての思い出の場所。あの幸福な一週間を忘れたことはない。

 私もバルコニーに出て和泉の隣に並んでみる。
 ハワイよりも海が近くて白い砂浜も見える。風が気持ちよくて口元まで緩んでしまう。
 隣にいる和泉が嬉しそうに海を見ているのを見てますます嬉しくなる。和泉とまた旅行に来れて嬉しい。さっきから、嬉しい、幸せ、そんなシンプルな感想ばかりが浮かんでくるから相当浮かれているみたいだ。
 和泉はそんな私に視線を落とすと、腰を引き寄せてそのまま後ろから抱き着く。

「夕食の後はここでのんびりしましょう。お酒を飲みましょう」
「部屋だけじゃなくて、ハワイを思い出すねえ」
「はい、嬉しいです」
 
 そう言うと、和泉は私の顎を掴んで上を向かせるとキスをする。
 
「でもあの時はこんな風にキスできませんでした」

 キスが終わるといたずらっこの表情を見せる。この顔はあの時だってしていた。

「もうちょっとだけしてもいいですか」
「うん……で、でも、中でしよう」

 大丈夫だとは思うけど……誰かに見られたらと思うと恥ずかしい。さすがに日本ではハワイほど大胆にはなれない。

「わかりましたよ」

 いじけたような声を出すと、和泉は私の手を引いて室内に戻る。
 ベッドに腰かけるとすぐにキスが何度も落ちてくる。

「今日はのんびりホテル内を散歩して、ホテルで夕食ですよね」
「そうだね」
「まだ時間はたっぷりありますよね」
「そうだね」

 海が見える白い部屋は爽やかだけどとてもロマンチックだ。ハワイで恋人ではなかった私たちはその時を埋めるように甘い時を過ごした。
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