プルメリアと偽物花婿
 和泉は私とプルメリアをじっと見つめるから私も腕の中のブーケに視線を落とした。

「ハワイでは挨拶にALOHAを使いますよね」
「うん、そうだね」

 確かにハワイではこんにちは、のかわりにALOHAを使った。でもこんにちは、だけではなく、ありがとうやお祝いの言葉としても使われる万能の愛の言葉だ。

「プルメリアの五枚の花弁には、ALOHAの一文字ずつの意味が込められてると言われているみたいです」
「ALOHAの一文字ずつ?」
「Aはアカハイ。優しさ。Lはロカヒ、調和。Oはオルオル、思いやり。Hは謙虚、Aは忍耐といったように一つずつ大切なメッセージが込められてるみたいなんです。俺たちはそんな関係になっていきたいなと思って……ちょっとロマンチックすぎますか?」

 和泉は照れたように白い歯をこぼした。
 一つずつの言葉にじんわりと胸を熱くしていた私は首を振るのが精いっぱいだ。

 和泉はまた祭壇に手を伸ばすと、次はリングケースを取り出した。光に当たって指輪がきらめく。
 私の手をそっと取ると、和泉は指輪を優しくはめてくれた。

「凪紗先輩。俺はもう先輩の幸せを願うだけは嫌なんです。これからお互い嫌なところも出てくると思うんですが、それでも二人で幸せを作っていきたいです」

 指輪をはめた薬指に和泉は小さくキスをした。そして私を見つめる。
 
「俺と結婚してください」

 二人だけのチャペルに和泉の声が凛と響いた。その優しい音が私の胸に大きく響いていく。

「はい。私も大好き」
 
 思いのほか小さな声になった。だけど私の言葉にぱっと和泉の笑顔が咲く。そのままぎゅっと抱きしめられてキスをしようとするから――

「い、いずみ。ここってスタッフさんがいるんじゃ……!?」
「大丈夫ですよ。しばらくは貸し切りなんです。ちょっとキスするくらいは許されます」
「花束がつぶれちゃう」
「ここにもう一度置いておきましょう! ……それにハワイでは誓いのキスができなかったから」

 そう言われると、弱い。それ以上反論する気をなくした私に和泉はニコニコしながらブーケを祭壇に戻した。
 
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