プルメリアと偽物花婿
 そして和泉はそっと私の肩に触れた。
 ハワイでの挙式、宝物を触るみたいにベールをあげた和泉の姿が思い浮かぶ。和泉が私を見る瞳はいつだって優しくて、大切にされていると思い知らされてしまう。
 チャペルに差し込む光みたいに優しいあたたかい瞳だ。

「なんだか二回目の挙式みたいですね」
「ものすごく私服だけどね。――でも、ドレスを着ているあの日よりも本当に挙式な気がする」
「なんせ愛し合ってますからね。あ、でもちゃんと地元でも結婚式しましょうね。結婚式三回するみたいになっちゃってますが」
「ふふ。でも全部ちゃんと意味があるからいいんじゃないかな?」
「それもそうですね」

 和泉が笑顔をこぼしてから、私たちは身体をピッタリとくっつけてキスをした。

 あの日はお互いの幸せを願って、今日は二人の未来を祈って、次は大切な人たちに向かって愛を誓う。

 あの日は罪悪感があった、きっとお互いに。
 本当の愛が誓えなかったことを。かわりに幸せを願ったことを。
 だけど、あの日があったから、今の私たちがある。
 
「幸せなことは何度あってもいいもんね」
「ハネムーンでもまた挙式しちゃいますか」
「いや。それはいいよ、もう」

 二人で顔を見合わせて笑う。
 
 チャペルからは青い空と海がどこまでも続く。私たちの未来はのびやかだ。
 きっと空は青いだけじゃない。荒れ狂う雨の日もどんよりとした曇りもあるし、日差しが強すぎる日も。

 それでも。
 祭壇に置かれているプルメリアのブーケを見つめる。一枚一枚に込められている意味のように和泉を大切にしたい。
 私は空に誓うように、もう一度プルメリアのブーケを抱きしめた。 



fin

 
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