プルメリアと偽物花婿
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「先輩、先にお風呂入っていいですよ」
「……じゃあお先に」

 白いタイルのバスルームに入り、シャワーをひねる。
 
 明日結婚する男女が同じ部屋に泊まる。憧れのホテルだし、ロケーションは最高だし、気持ちは開放的だ。お酒がいくらか入っているから足も気持ちもふわふわしているし。
 
 和泉は私が嫌がることをしないとは言った。でも、手を出さないとは言っていない。
 たっぷりお酒と食事を楽しんだ後は、免税店に入ってみたり路上のパフォーマーを見たりして、もう眠ってもいい時間にはなっている。
 だけど、和泉は私のことを好きだと言うし、男女なのだし、そういうこと、も覚悟しないといけないのかもしれない。

 ぐるぐる考えながら部屋に戻ると、交代で和泉もバスルームに向かった。
 先程までのリラックスした気持ちにはとてもなれず、ソファに姿勢よくきちんと座ってしまう。こんな格好をしていたら、意識しすぎなのはバレバレだけど、身体に力を入れていないとそわそわ部屋を歩き回ってしまいそうなのだ。酔いはシャワーと一緒に流してしまったみたい。

「お風呂いただきましたー」

 軽い口調と共に濡れた髪の毛をタオルで包みながらバスローブ姿の和泉が現れて、私の身体はわかりやすくビクッと跳ねた。

「先輩、緊張しちゃって可愛いなあ」

 和泉は私を見て小さく笑う。嫌な気はさせてなさそうで安心する。

「か、髪の毛乾かしてきたら」
「えー暑いんですもん。すぐ乾きますって」
 
 前髪からぽたりと雫が落ちて、バスローブに染み込む。先程まで和泉がシャワーを浴びていたことを改めて実感して、バクバクと心臓の音が鳴る。
 和泉は私の反応を無言でおかしそうに見ると、冷蔵庫を開いた。さっきABCストアで買ってきた飲み物を冷蔵庫から取り出している。明日はゆっくり朝食を食べている暇もないからと朝食と飲み物を購入してきたのだ。

「先輩もお水飲みます?」
「う、うん」
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