プルメリアと偽物花婿
「さっきからどうしたんですか? もしかして婚約者に逃げられたとか?」
軽い声が隣から聞こえてくる。隣のデスクを見ると、後輩の和泉拓真(いずみたくま)がコンビニのサンドイッチを食べながら私を見つめていた。
混乱しきっていた私は周りが一切見えていなかったことに気づく。
「そのまさかよ」
「えっ、あ? うえっ、なんで?」
和泉が奇声をあげたけど、今の状況は本当にそれでしかない。本当に、えっ、あ? うえっ、 なんで? の状況。
「状況は全く不明」
「うわ、ブロックされてますね」
私がメッセージ画面を見せると、和泉は端正な顔を歪めた。恋愛に困ったことがないであろう彼もさすがに哀れな先輩に同情してくれている。
「でもラッキーじゃないですか、旅行はくれるらしいですよ」
「一人で行くって? みじめな気持ちになるだけよ」
ハワイで一人挙式だなんて虚しいにもほどがある。逃げておいて状況すら説明すらしない婚約者に苛立ちがこみあげてくる。
「航空券あります?」
和泉は私に手のひらを差し出した。航空券を渡せと言わんばかりに。
「はい」
数時間前のキャンセルの裏技でもあるのだろうか。私は素直に航空券を和泉に渡した。
和泉はスマホを取り出すと航空券と見比べながら「ギリギリ間に合った」などと呟きながら何やらポチポチと打って、
「じゃあ行きましょうか」
「え?」
「ハワイ。俺、同じ便の航空券取ったんで」
「はあ?」
「まだ空席あってよかったですよ」
混乱からの混乱。何を言っているんだ、この子は。
頭の中がはてなマークでいっぱいの私を気にすることなく、和泉はパソコンに向かいキーボードを打つと「俺も午後休取りましたからこれでオーケーです」なんて言っている。
「ああ大丈夫ですよ、俺少し前にハワイいったんで。エスタの申請も問題ありません」
「いや、そうじゃなくて」
「ちょうど旅行の用意もあるんですよ、まあハワイぽさはないですけど」
和泉はそう言って立ち上がると、大きなスーツケースをを見せた。――そのスーツケースは、私の物ではない。つまり和泉のものだ。
軽い声が隣から聞こえてくる。隣のデスクを見ると、後輩の和泉拓真(いずみたくま)がコンビニのサンドイッチを食べながら私を見つめていた。
混乱しきっていた私は周りが一切見えていなかったことに気づく。
「そのまさかよ」
「えっ、あ? うえっ、なんで?」
和泉が奇声をあげたけど、今の状況は本当にそれでしかない。本当に、えっ、あ? うえっ、 なんで? の状況。
「状況は全く不明」
「うわ、ブロックされてますね」
私がメッセージ画面を見せると、和泉は端正な顔を歪めた。恋愛に困ったことがないであろう彼もさすがに哀れな先輩に同情してくれている。
「でもラッキーじゃないですか、旅行はくれるらしいですよ」
「一人で行くって? みじめな気持ちになるだけよ」
ハワイで一人挙式だなんて虚しいにもほどがある。逃げておいて状況すら説明すらしない婚約者に苛立ちがこみあげてくる。
「航空券あります?」
和泉は私に手のひらを差し出した。航空券を渡せと言わんばかりに。
「はい」
数時間前のキャンセルの裏技でもあるのだろうか。私は素直に航空券を和泉に渡した。
和泉はスマホを取り出すと航空券と見比べながら「ギリギリ間に合った」などと呟きながら何やらポチポチと打って、
「じゃあ行きましょうか」
「え?」
「ハワイ。俺、同じ便の航空券取ったんで」
「はあ?」
「まだ空席あってよかったですよ」
混乱からの混乱。何を言っているんだ、この子は。
頭の中がはてなマークでいっぱいの私を気にすることなく、和泉はパソコンに向かいキーボードを打つと「俺も午後休取りましたからこれでオーケーです」なんて言っている。
「ああ大丈夫ですよ、俺少し前にハワイいったんで。エスタの申請も問題ありません」
「いや、そうじゃなくて」
「ちょうど旅行の用意もあるんですよ、まあハワイぽさはないですけど」
和泉はそう言って立ち上がると、大きなスーツケースをを見せた。――そのスーツケースは、私の物ではない。つまり和泉のものだ。