プルメリアと偽物花婿
 ペットボトルを受け取る時に少しだけ指が触れる。こんなことで動揺するな、中学生じゃないんだから。
 私は動揺をさとられないように水を勢いよく飲んだ。

「明日、結婚式ですね」

 和泉もペットボトルの水を飲みながら、私の隣に腰掛けた。水が喉を通っていく様子を見ていると、また顔が熱くなる。

「飛行機、そんなに眠れなかったんじゃないですか?」

 和泉が私の顔をじっと覗き込んだ。ソファで隣に座っているのだからその距離は近い。……キスできそうなほどに。
 和泉の指が私の頬に触れる。顔は可愛いのに、長い指は角張っていて男の人だと意識してしまう。頬を撫でていくたびに顔の熱が増えていく。

「クマが出来てますよ」

 和泉は目の下にそっと触れてはにかんだ。

「……からかった」
「リラックスさせようとしただけですよ」
「出来ないのわかってるくせに」
「順調に意識してもらえてて嬉しいです」

 何を返しても和泉は嬉しそうにするから困ってしまう。

「好きなものは最後まで残しておくタイプなんです。だから安心してくださいね」
「それって安心していいの」 
「無理やりする趣味もないですし、我慢強いんですよね」

 挑戦的な瞳が私を見つめる。恋愛経験中学生の私、どう返したらいいか正解がわからない。慣れてる大人の女性なら、逆に和泉に触れたりするの!? 自分からキスとかするの!?
 ……私も二十八歳という立派な大人のはずなのに。目の前の年下に翻弄されまくっている。

「和泉、慣れてる」
「失礼な。先輩一途ですよ」

 そう言う割には全く表情が崩れずにずっとニコニコしたままで、疑わしい。

「それはちゃんと証明するので」

 和泉はそう言うと立ち上がって、私を引っ張り上げた。
 手を引かれて向かったのはキングサイズの白いベッド。私の手を繋いだまま座るから、私も自然と座ることになる。

 繋いだ手を離して、和泉の長い指が私の後頭部に移動したかと思うとそのまま優しく押し倒された。

「え……!」
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