プルメリアと偽物花婿
3 偽物ハッピーウエディング
「……本当に先輩と結婚するんですね」
耳まで赤くなった和泉が口を抑えて、感慨深そうに呟いた。そんな和泉の反応を見て、コーディネーターやカメラマンまで微笑ましい表情になる。
和泉の反応は私にまで伝染して、次の言葉が見つからない。
……ずるい、そんな反応。
昨日はあんなに余裕な表情で、ベッドに押し倒しても頬に触れてもずっと笑顔のままだったのに。
なんで私のドレス姿を見るだけでこんなに真っ赤になってるの!?
―-そんな表情を見せられたら、本当に私のことが好きみたいじゃない。
ホテルの室内。タキシードとドレスに着替えた私たちは向かい合っていた。
早朝ホテルでへアメイクが始まり、和泉は楽しみにしてるんで!と私の支度が終わるまでは散歩に出かけていた。私の支度が終わる頃に外から帰ってきて、バスルームでタキシードに着替えて私の支度が完成するまで待機していたのは……正直かわいい。
そしてようやくご対面、となったわけだけど。一目見た瞬間わかりやすく固まって、幽霊でも見るかのように私を凝視するとみるみる赤くなった。
そんな姿を見れば、私にも赤色が伝染るのは仕方ない、と思うんですけど……!
「きれいです、本当に」
和泉は言葉を詰まらせながら呟いた。きれい、という言葉よりも、和泉の表情が本当にそう思ってくれてるみたいで私だって言葉に詰まる。
な、なんだこれ。
昨日よりももっとドキドキする。
「…………」
「…………」
「見てるこっちが幸せになってしまいますねえ!」
固まった私たちを見かねたコーディネーターが声を張り上げてくれて、私たちは魔法が解かれたみたいに動きを再開することが出来た。
「このままお部屋とホテル内で撮影をしますね」
「はい……!」
挙式の前にホテル内での写真撮影もお願いしていた。ホテルは室内も館内もどこもフォトジェニックだ。
カメラマンに指示されて、私たちは寄り添うことになる。……コーディネーターもカメラマンも知らない。私は和泉とこんなに密着したことが一度もないことを。
軽く腕を組み、言われた通りのポーズを取ると横腹に熱を感じてしまう。和泉を見ればカメラに向かって薄く微笑んでいる。
「なんか慣れてない?」
「学生の頃に新郎モデルしたことあるんですよ」
……やっぱり慣れてた!
さっきはあんなに真っ赤になっていたのに、もういつもの顔に戻ってる。
「新婦様、もう少し笑顔で!」
カメラマンにそう言われて、私は慌てて笑顔を作った。