プルメリアと偽物花婿

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 ホテル内での撮影を終えると、用意されていたリムジンに乗り込んだ。
 向かう先はコオリナ地区。オアフ島の西にあり、ワイキキから四十五分程。王族の保養地だったとかで、閑静な高級リゾートエリア。賑やかなワイキキに比べて穏やかな時が流れるので、ウエディングにはピッタリの場所だ。

「リムジンに乗ることなんてもう二度となさそう」

 プラン内に含まれているサービスとはいえリムジンは緊張してしまう。

「何もかも贅沢だよねえ」

 提供された飲み物だってペットボトルじゃなくてちゃんとグラスに注がれている。

「結婚式は一生に一度の大切な日ですからね。贅沢も特別も許されますよ」
 
 偽物花婿の和泉はグラスから口を離すと

「ああでも、俺たちにとっては一生に一度じゃないですね」

 さらりと放たれた言葉に胸がちくりとする。
 
 ……偽物花嫁だから。本当の結婚式じゃないから。それはわかってるけど。
 昨日からの和泉なら「一生に一度、これきりにしましょうね」なんて言うと勝手に思ってた。
 気持ちに応えられるかわからないくせに、何を地味にショック受けてるんだ、私……!

「本当に先輩が俺と結婚するつもりになったら。俺たちの地元でもしましょう、結婚式」
「え……」
「先輩、本当はそれが希望だったでしょう」
「なんで」
「俺は先輩のことはお見通しですからねー」

 和泉はそう言うと「今回のマーメイドドレスも海外ウエディングらしくて素敵ですけど、白無垢とか色打掛も似合うと思うんですよね。ああでもカラードレスも捨てがたい」と明るい調子で続けた。

 私、どこかで和泉に言ったかな。菜帆には言った気がする。そうなるとその場に和泉もいたかもしれない。女子トークを和泉はいつもニコニコと聞いていた。

 ――そう。私は本当は海外で二人きりでなくて。
 地元でドレス姿を見せたい人がいた。

 和泉の気持ちが嬉しくて喉がぐっと絞まる。

「地元にも案外おしゃれなゲストハウスがあるんですよ。俺こないだ友達の結婚式で行って――」

 和泉がスマホを見せてくれて、その後はあれこれ地元の話をしているうちにリムジンはチャペルに到着した。

 リムジンから先に降りた和泉は、私に手を差し出した。

「エスコートしますよ、俺のお姫様」

 和泉の手に自分の手を重ねる。
 車内から、外に飛び出す。

 信じられないくらい青い空。絵本に出てきそうな白いチャペル。チャペルを挟む大きなヤシの木。

 そこはウソみたいな、おとぎ話のような空間で。
 私は真っ白なドレスに身を包まれている。
 優しく重ねられた手と穏やかな瞳。
 まるで全部が魔法みたいだ。

 私は今からここで、和泉の花嫁になる。
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