プルメリアと偽物花婿
 その後はセレモニーの一環の結婚証明書にサインをして、神父のありがたい聖書の話を聞いて、退場。と流れるままに過ぎていった。
 
 偽物挙式は無事に終わったのだけど。
 どこか寂しい気持ちを残す。
 本当の愛を誓わないことはお互いわかっていたことだし、ゲストもいないから騙したわけでもない。和泉は本当の気持ちを誓ってくれると言ったし、私も和泉の幸せを願った。

 だけど神秘的で夢みたいな空間で、本物の瞬間を過ごせなかったからか。
 虚しさが交じる、寂しい感情が何よりも残っていた。

 まるでシンデレラの魔法がとけたみたいに。
 王子と姫のフリをしたけど、唇にキスもできなかったから。

  
 和泉ももしかしたら同じようなことを考えたのかもしれない、チャペルから控室まで一言も発さなかったし、控室につくなりトイレに出て行ってしまった。
 
 この後は写真撮影があるから、と私はヘアメイクさんに捕まり。和泉が戻ってきたときには、撮影のためにチャペルの敷地にあるガーデンに向かうことになった。

「先輩疲れてないですか? 足とか」
 
 トイレから戻ってきた和泉はへらりとした笑顔を浮かべて、いつも通りの口調で私を気遣ってくれる。

「緊張したけど元気!」

 私も笑顔を作って見せると、コーディネーターが「ここからガーデンです」と扉を開いた。

「わあ……!」

 ほんの少しのきまずさを打ち消すように私は声を上げた。
 だけど、感動したのも本当だ。

 扉を開くと、そこには広い緑のガーデンが広がっていた。広大な敷地は普通の学校の運動場二つ分はあるのではないだろうか。
 敷地の端にヤシの木が植えられているだけで、あとは芝生がただ広がっている。ヤシの木の向こうには海が見える。
< 26 / 136 >

この作品をシェア

pagetop