プルメリアと偽物花婿
「俺、実は閉所恐怖症なんですよ。別に海は苦手なわけじゃないんですよ? シュノーケリングとか、普通に泳ぐのとか好きですし。海は広いですし、まさか海の底でパニックになるとは思ってなくて」
「そうだったんだ。……でもそうかも、シーウォーカーって自由が利かないからちょっと怖いよね」
「入った瞬間は全然大丈夫だったんですよ。でもヘルメットに圧迫感を感じてしまって、それに恐怖心を感じてしまったらもうダメで」
和泉の顔が少し翳る。思いだしてしまったのかもしれない。
……でもそうか。あれは少しパニックになってしまっていたのか。海の中、一度怖いと思ってしまったらもうだめかもしれない。自力では息もできないのだから。
「ダイビングの経験ないんですけど、これはダイビングも無理そうだなって思いました」
「そうだね……。まあダイビングはもう少し身体の自由が利くから違うかもしれないけど」
「せっかくの楽しい時間なのに、驚かせてしまって中断させてしまってすみませんでした」
和泉は私に向かい合うと頭を下げる。
「本当に気にしないで。むしろこっちこそ付き合ってもらってありがとう。私は今日も十分楽しかったよ、本当に」
和泉の体調が心配だったのも、驚いたのも本当。だけどそれよりもっとたくさん思い出も作れた。今日一日ずっと楽しかった。
和泉に恐ろしい体験をさせてしまったことの方が申し訳ない。
「はあ、情けないとこ見せちゃったなあ。俺、この五泊七日は頼れるいい男でいたかったのに」
和泉はふてくされた顔を作るから、その顔が可愛くて思わず笑ってしまう。
「あはは」
「ほら。今俺のこと、かわいいと思ったんじゃないですか? 俺はかっこいいところだけ見せたかったのに」
「ふふ。和泉ずっとかっこよかったからたまにはいいと思う」
「はあ……フォローが悲しい」
本音なのに。