プルメリアと偽物花婿

 この三日、ううん、出国前から和泉はずっとかっこよかった。
 突然婚約破棄を告げられて立ちすくんでいた私を、明るい世界まで連れ出してくれた。あの行動力にどれほど救われたか。
 きっと日本にいたままだったら、自分を責めながら一週間部屋に閉じこもっていたはずだった。
 ハワイに来てからずっと涼しい顔で、ハワイ慣れてますよって顔で素敵な場所に案内してくれて、英語までぺらぺら喋っちゃったりして。
 タキシード姿はモデルみたいだったし……しかもなんかモデルとしても慣れているし。

 ずっとかっこよかった。ちょっと王子様みたいだと思ったくらいには。
 でも、それよりも――。

「かっこいいとか、そういうことよりも、和泉といるとずっと楽しいよ」

 伝えたくなった。和泉といるとずっと楽しい。
 和泉との時間はどうしてこんなに気持ちがゆったりと流れていくんだろう。
 山田さんの前では、というか婚活で出会った男性たちの前では常に肩の力が入っていた気がする。嫌われないように、失敗しないように。それなのに大失敗したんだから、どれだけ恋愛に向いてないんだろう。
 
「和泉といると肩の力が抜ける」

 私として結構勇気を出して言ってみたんだけど、和泉は複雑な表情になる。

「これって喜んでいいんですか?」
「え、うん」
「恋愛対象として見てないから、ドキドキしないから、楽とかじゃないですよね?」
「え……」
 
 改めてそうやって確認されると……身体に力が入ってしまう。
 ……ドキドキしないことは、ない。

「そういう反応してもらえるだけ、進歩したと思いましょう。困った顔しなくていいですよ」

 和泉は笑って私の眉間をつついた。どうやら眉を寄せてしまったらしい。
 触れられてみて気づく。二人でバルコニーの外を眺めるこの配置は、頬に手を触れることもできるし。……キスだって、出来てしまう。
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