プルメリアと偽物花婿
 酔ってもないのに、顔が火照る。熱い頬を自分で触ってみると、和泉がニコニコとした表情でこちらを見ている。

「焦らなくていいですよ。長期戦覚悟してるので」
「焦ってるわけじゃないけど……ちゃんと旅行中には結論を出すから」
「宣言されるとそれはそれで怖いんですが」

 和泉は笑うと私の頬に手を伸ばした。先ほどまで冷たいグラスを持っていたからか和泉の手はひんやりしていて、私の火照った頬を冷やすから。やっぱり和泉のせいで赤くなっていたと気づく。

「真面目な先輩のことだからどうせ『甘え続けるのは悪い』とか思ってるんでしょうけど。俺としては甘えてもらえる分だけありがたいんですけどね」
「……そういうもの?」
「そういうものです。だから俺に甘やかされてください」

 被せるように肯定される。
 その表情は大人びていて、こんな風にじっと見つめられるとどうしていいかわからなくなる。
 今日だけでいくつもの和泉の顔を見た。年齢相応にはしゃぐ姿、不安や恐怖に染まる表情、ふてくされた姿。そんな年下らしくて可愛い和泉をたくさん知ったのに。
 こうして夜闇の中で私をじっと見つめる姿は昼間の和泉とは重ならない。
 私の熱い頬に染まった和泉の手のひらはぬるくなっていて、どこまでが私の頬で、どこからが和泉の手のひらなのか、もうわからない。

「そろそろ寝ますか。さすがに身体動かしすぎて疲れました」

 少し笑って席を立つ。私のドレス姿を見て真っ赤になるくせに、こういうところはスマートで。いろんな顔に揺り動かされてしまう。

 部屋に戻ると、和泉はいつものようにソファに横になり、あくびをしている。

「和泉、本当に体調大丈夫なんだよね? 今日は私がソファで眠るから和泉がベッド使ったら?」

 そもそも和泉の足はソファからはみ出てしまうのだから、私がソファの方がいいだろう。

「いや、俺は居候みたいなものなので」
「居候って」

 私が吹き出すと、和泉はソファから立ち上がってベッドまでやってきた。

「じゃあ二人でベッドで寝ますか?」
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