プルメリアと偽物花婿
その表情はこの数日間で何度も見た、いたずらっこの表情だ。私だって和泉より三歳も年上だ、からかわれてばかりではいられない。
「そうね。キングサイズだし、せっかくだから二人で使いましょう」
思えば和泉はいろんな顔を見せてくれたけど、私は出国前から情けないところ続きだ。
きっと恋愛偏差値の高い女性ならベッドごときで動揺せず、最初から二人で使うことを提案していたはずだ。三日目まで気づけなかったけど……!
「え」
和泉は戸惑ったように固まる。……和泉の反応って本当に読めない。これは照れるんだ……!?
涼しい顔して、それじゃあ一緒に寝ましょうと言われるかと思っていたので、反応に困ってしまう。
こうやって困ってしまうところが、恋愛偏差値の低さだ。
「下心で言ってるわけじゃないから安心して!? ほら広いから。全然二人で使えるなと思って……」
「…………そういう問題ではないんですが、まあ下心あるとか言われた方が困るか」
「困る?」
「困りますよ。俺の中で先輩はなんというか、簡単に汚してはいけない人なので」
わかるようなわからないようなことを和泉は言ってから
「はあ、俺の精神力が試されている……」
「ごめん、間違った選択だった? 私がソファで寝るよ」
「いえ、大丈夫です。落ち着きました」
そう言うと、和泉はベッドに寝転んだ。私の腕をひっぱって。
「わわ……!」
私の身体はベッドにゆったりと着地した。清潔なシーツに私も寝転んでいて……隣には和泉の顔。
さっきまで照れていたはずなのに、それをどこかに仕舞い込んだ和泉は私を見て口角を上げた。
「先輩が一緒に眠ろうって言ったんですからね?」
「そうだけど。下心はないんだもんね」
「いや、ありますけど……」
「ある……」
寝転んで向かい合っているこの状況でとても眠れるとは思えない。
和泉もさっきまであくびをしてとろんとした目をしていたくせに、キラキラした目でこちらを見ている。
それどころか気付けば私の髪の毛を触っていて……これはもしかして、甘い状況というやつではないでしょうか。