プルメリアと偽物花婿
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……と思っていたのだけど。
朝目覚めた時、私の目の前にあるのは胸板だった。バスローブがはだけて素肌だ。その素肌に私は頬をくっつけていた。
「……!!!」
「あはは」
驚いて一瞬で目がさめた私の頭上で笑い声が聞こえた。上を見上げると、和泉がおかしそうに笑っている。
「先輩って結構寝相悪いんですね? 言っておきますけど俺が抱きしめたわけじゃないですよ」
和泉はひらひらと両手を振ってみせる。私は自分の腕ががっしりと和泉の身体にまわされていることに気づく。
驚いて瞬時に手をあげると和泉は声を出して笑った。
「私が和泉を抱きしめていたんですか」
「はい」
「いつから」
「いつでしょう。俺が目覚めた三十分前からこうなってましたね」
なんということでしょう。……ああそうだ、きっと家で抱き枕を愛用しているから。抱き枕が恋しくなってしまったに違いない。
そう、決して人肌が恋しくなってしまったわけではない。
「起こしてくれたらよかったのに」
「だってこんなシチュもうないかもしれませんよ。堪能しておきたいと思いまして」
「はあ」
「俺だって理性とめちゃくちゃ戦ったんですから、褒めてほしいところですね」
……さらりとそういうことを言わないでほしい。
「ずっと寝顔を見てたの?」
「今さらですよ。俺は早起きなのでハワイに来てから毎朝先輩の顔を眺めています」
「えぇ……」
「そんなことよりも。今日は朝から並ぶんでしょう」
和泉は笑いながら起き上がった。私もそう言われて慌ててスマホの時間を確認する。……うん、問題なさそうだ。